外付けGPUがThunderboltで動かない? 3世代のGPUで検証〜Intel Arc B580ローカルLLM 第5話
手持ちのPCで、外付けGPU(eGPU: パソコンの外にGPUを箱で接続する仕組み)を、世代の違う3枚のグラフィックボードで順番に試しました。何故か、どれも Thunderbolt 経由では動かず、しかも止まる場所が3枚とも違うという結果となりました。
本記事では、その失敗の記録を残します。同じGPU・同じ機体・同じ接続ドックの状態で、つなぎ方だけを Thunderbolt から OCuLink(オキュリンク)に変えたところ、あっさり動いたことから、GPUの「対応世代表」だけでは判断できない、何かしらの経路そのものが支配的だな原因があると考えられます。
今回の測定環境は GMKtec EVO-X2(以下、EVO-X2)と Apple Mac mini M4。ドックは AOOSTAR AG03、比較対象のGPUは NVIDIA GeForce RTX 5060 Ti / RTX 3060 と Intel Arc B580 です。2026年7月時点の実測です。
使用した機器の概要
今回の検証は、ミニPCの EVO-X2 を母艦に、外付けGPUドック AOOSTAR AG03 を介して世代の違う3枚のGPUをつなぎました。比較のため Apple Mac mini M4、および同じ Arc B580 をデスクトップPCのPCIeスロットへ直挿しした構成でも確認しています。使用した機器は下記のとおりです。
試したGPU
- Intel Arc B580(12GB・Battlemage 世代/2024年)
- NVIDIA GeForce RTX 5060 Ti(16GB・Blackwell 世代/2025年)
- NVIDIA GeForce RTX 3060(12GB・Ampere 世代/2021年)
- 比較用:NVIDIA GeForce RTX 3090(24GB・デスクトップPCへ直挿し)
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使ったPC
| ミニPC(母艦) | GMKtec EVO-X2(Ryzen AI Max+ 395/Radeon 8060S/128GB統合メモリ/Ubuntu) |
| 比較用PC | Apple Mac mini M4 |
| 比較用デスクトップPC | Ryzen 9 3950X/RTX 3090(Arc B580 の直挿し検証に使用) |
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使ったThunderBolt BOX:AOOSTAR AG03
GPU用電源ケーブルと、Thunderbolt 5 に対応したケーブル、電源ケーブルがついています。OCuLinkケーブルは付属しないので、注意が必要です。
以前の記事で記載したAG01と兄弟です。
AG01と並べた写真がこちら。
ほぼデザイン変わらず、USB Type-Cが追加されています。
もう一つの兄弟機AG02も含めたスペックの差は下記のとおり。
| AG01 | AG02 | AG03 | |
| 搭載電源 | 800W | 800W | 800W |
| 対応GPU消費電力 | 600W | 600W | 500W |
| OcuLink | 対応 | 対応 | 対応 |
| ThunderBolt | 非対応 | TB4(40Gbps) | TB5(80Gbps) |
| ThunderBolt給電能力 | 非対応 | 100W | 140W |
| USBホスト機能 | 非対応 | 非対応 | あり |
AG03は、GPUへの電力の供給能力がやや低い点は注意が必要ですが、電源供給能力を備えた上で、USBホストの機能も持っています。USBからの電源で動くPCであれば、このAG03がドッキングステーションとして機能します。
3機種を並べておきます。当窓が使っているのは AG01 と AG03 で、AG02 は表のスペックのみで実機は試していません(2026年8月1日確認)。
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目的:なぜ外付けGPUを試すのか
EVO-X2 は 128GB の大容量メモリを積んだミニPCで、ローカルLLM(LLM: 大規模言語モデル。文章を生成するAIの本体)の常用機として優秀でした。ただし内蔵GPUは Radeon で、CUDA(NVIDIA製GPUの高速計算基盤)を必要とする処理には使えません。
そこで外付けで NVIDIA や Intel のGPUを足せないかを検証しました。狙いは、ミニPCの手軽さを保ったまま、必要なときだけ強力なGPUを外付けするという構成です。
実験内容:3世代のGPUを同じ経路で試す
接続には AOOSTAR AG03 というドックを使いました。このドックは Thunderbolt 5(以下、TB)と OCuLink の両方の口を持ちます。まず TB 側で、世代の異なる3枚を順番に接続しました。
なお、母艦の EVO-X2 側の受け口は USB4(Thunderbolt 4 相当・最大 40Gbps)です。AG03 側は Thunderbolt 5(最大 80Gbps)に対応していますが、つなぐ EVO-X2 が Thunderbolt 4 相当のため、今回は Thunderbolt 4 相当の帯域での接続です。
- NVIDIA GeForce RTX 5060 Ti … Blackwell 世代(2025年)
- NVIDIA GeForce RTX 3060 … Ampere 世代(2021年)
- Intel Arc B580 … Battlemage 世代(2024年)
各GPUについて「PCIで認識されるか」「ドライバがGPUを掴めるか」「実際に計算が回るか」を段階的に確認しました。
結果:3枚とも止まったが、止まった場所が違った
TB 経由では、3枚すべてが計算に到達しませんでした。ただし、それぞれ違う段階で止まっています。
同じドック・同じ機体で、世代を変えると停止点が「計算実行時」「初期化直前」「認識段階」と綺麗にずれています。これは後述する調査とも整合しました。
ThunderBoltに異常がある?
ここで試しに、TB で動かなかった RTX 3060 を、同じ AG03 ドックの OCuLink 側に挿し替えると、何事もなく動きました。
| 項目 | Thunderbolt 経由 | OCuLink 経由 |
|---|---|---|
| PCI 認識 | ○ | ○ |
| ドライバ初期化 | ✗ 失敗 | ○ 成功 |
| nvidia-smi | ✗ 認識せず | ○ 12GB 認識 |
| VRAM の窓(BAR) | 256MB | 16GB |
| 実際の計算 | ✗ 到達せず | ○ 安定動作 |
決定的なのは「VRAM の窓(BAR: CPUがGPUのメモリを覗くための窓口)」の欄です。TB 経由では 256MB しか開かないのに、OCuLink では 16GB フルに開いています。
この「窓を大きく開く」機能を ReBAR(Resizable BAR)と呼びます。12GB のVRAMに対して窓が 256MB では、ドライバがまともにメモリを扱えません。接続方式を変えただけで、窓が 256MB から 16GB へ 64倍に広がりました。
OCuLink で動いた RTX 3060 の速度も測りました。同じモデル(nemotron-3-nano:4b)を各GPUで動かした decode 速度(文章を生成する速さ)の比較です。
[kimono_bar title="nemotron-3-nano:4b の decode 速度(tok/s・大きいほど速い)" unit="tok/s" highlight="2″ note="RTX 3090はデスクトップPCに直挿し(CUDA)、RTX 3060はEVO-X2のOCuLink経由(CUDA)、Arc B580はデスクトップPCに直挿し(Vulkan/Mesa 26.1.5)。Ollamaでの実測・2026年7月時点。"]
RTX 3090(直挿し・CUDA) | 181.41
RTX 3060(OCuLink・CUDA) | 99.20
Arc B580(直挿し・Vulkan) | 94.69
[/kimono_bar]
注目したいのは、OCuLink 経由の RTX 3060(99.20 tok/s)が、以前に測った同じ 3060 の直挿し値(90.6 tok/s)を下回っていない点です。差はドライバ版やホスト構成の違いで説明できる範囲で、OCuLink は速度面ではPCIeスロット直挿しとほぼ同等と言えました。監視中の20分間、Xid エラーもバス切断も0件で、高負荷でも安定していました。
考察:世代表ではなく経路で決まる
TB で3枚とも止まった原因を、公開されている情報と突き合わせました。ここから先は調査に基づく内容です。
止まった位置は、それぞれ既知の問題と一致した
RTX 5060 Ti の「アイドルでは認識するがCUDA実行で即ハング」という症状は、NVIDIA のオープンソースドライバに寄せられた Issue #979(RTX 5080 を Thunderbolt 5 eGPU で使うとCUDA操作でハードロック)と完全に一致していました。この報告は現時点で未解決です。私の設定ミスではなく、ドライバ側の既知の壁でした。
Arc B580 の GuC 初期化失敗は、Thunderbolt 特有の通信遅延で GPU 内部のマイコンとのやり取りがタイムアウトする、カーネル最前線の未解決問題でした。RTX 3060 の認識失敗は、外付け機器をセキュリティ上「信頼できないデバイス」として扱い IOMMU(メモリアクセスの仲介・保護機構)を強制する Linux の仕組みが関係していると考えられます。
共通していたのは ReBAR が効いていないこと
3枚に共通していたのは、TB 経由では VRAM の窓が 256MB に固定されていた点です。EVO-X2 の BIOS には ReBAR や Above-4G という設定項目そのものがありません。一方、比較用に Arc B580 を別のPC(Ryzen 9 3950X 機)のPCIeスロットへ直挿ししたところ、窓は 16GB フルに開き、GPU は完動しました。
つなぎ方で ReBAR が効いたり効かなかったりし、それが動作を分けていました。「このGPUは対応世代だから動くはず」という発想だけでは、この結果は説明できません。どのGPUを選ぶかより、どうつなぐかが支配的でした。
OS でも結果が変わりうる
さらに調べると、同じ EVO-X2 に別のドック(MINISFORUM DEG2)で RTX 5070 Ti を接続し、Windows では動作したという第三者の報告が見つかりました。作業は高速スタートアップの無効化と公式ドライバの導入のみで、カーネルパラメータの調整は一切登場しません。
EVO-X2 の Linux 向けの eGPU ガイド(Strix Halo 系プラットフォーム向け)や、同じ構成で動かしている先人の記録も存在します。「このホストでは eGPU が原理的に動かない」わけではないということです。今回動かなかったのは「この構成・このOS・このドックの組み合わせでは」という限定つきの結果でした。
まとめ
3世代のGPUを Thunderbolt 経由で試し、いずれも今回の構成では動きませんでした。正直に言えば、残念な結果です。
一方で収穫もありました。同じ RTX 3060 を、同じドックの OCuLink 側へ挿し替えるだけで、VRAM の窓が 256MB から 16GB へ広がり、直挿しと同等の速度で安定動作しました。EVO-X2 で外付けGPUを実用したいなら、現時点では OCuLink が確実な経路です。
Thunderbolt 経由については、まだ試していない道が残っています。
- Windows での切り分け(同じ機体で Linux とWindowsの結果を比べる)
- 別のドック(Razer Core X V2 など)での再挑戦
- Apple Mac mini の再挑戦(Ampere 世代は公式対応とされている)
実際に、Linux でも Windows でも、同じ EVO-X2 で eGPU を動かしている人がいます。今回動かなかったことは「この構成では動かなかった」であって「動かせない」ではありません。EVO-X2 も Mac mini も、外付けGPUの検証は引き続き調べていきます。続報が出せる終わり方の方が、私自身も納得がいきます。
参考にしたサイト
検証に使用した機材
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