1枚の写真から3Dが作れる?〜キヤノンの Dual Pixel と、他社の方法を調べた

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手元に EOS R5 Mark II があります。ふだんは記事の写真を撮るのに使っていて、3Dとは縁のない使い方をしてきました。

そこへキヤノンから、撮った写真1枚から3Dモデルを作るというWindows用アプリが発表されました。複数方向から何十枚も撮る必要も、専用の計測機材も要らないとのことです。写真から3Dを作る話はこれまでにもいくつもありましたが、今回の技術は何が違うのでしょうか?

2026年9月時点の調査です。提供開始は10月8日のため、当方はまだ試していません。以下はすべて公式ページと論文を読んだ内容で、実機での検証ではありません。

何を調べたか〜範囲と情報源

調べたのは3つです。この技術が何をしているのか、自分のカメラとレンズで使えるのか、そして写真から3Dを作る他の方法と比べてどこが違うのか。

数字と仕様は、キヤノンの公式ページとニュースリリースに書いてあるものだけを使いました。他社の技術については、各社の公式ドキュメントと、公開されている論文を読んでいます。レビュー記事の推測値は使っていません。

Dual Pixel 3D Converter とは何か

キヤノンが2026年9月16日に発表した、Windows用のPCアプリです。提供開始は10月8日で、当初は無償とされています。

名称 Dual Pixel 3D Converter(バージョン 1.0.0)
提供開始 2026年10月8日。当初は無償(今後の仕様や提供条件は変更の可能性あり)
対応OS Windows 11(64bit)バージョン24H2以降。Mac版はありません
入力 対応カメラとレンズで撮った Dual Pixel RAW(DPRAW)、または距離情報付きJPEG
出力 3Dモデル(OBJ または GLB)。プレビュー用の動画(MP4)も作れます
推奨環境 Core i7以上を推奨、メモリ8GB以上(推奨16GB)、空き容量2GB以上

できることは2つに分かれます。背景を含めた画面全体を立体にする使い方と、主な被写体だけを切り出して3Dモデルにする使い方です。切り出したモデルは Blender などの3D編集ソフトや PowerPoint でも使えるとされています。

奥行きの強さも後から調整できます。凹凸を強調した見せ方と、自然な見せ方を選べる形です。

どの機種とレンズで使えるのか

ここがいちばん気になるところでした。公式ページに一覧が出ています。

対応カメラ(8機種)

EOS R5 EOS R5 Mark II(ファームウェア Ver.1.3.1 以上)
EOS R6 Mark II EOS R6 Mark III
EOS R7 EOS R8
EOS R8 Mark II(距離情報付きJPEGに対応) EOS R10

対応レンズ(12本)

RF24-70mm F2.8 L IS USM RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM
RF24-105mm F4 L IS USM RF24-105mm F4-7.1 IS STM
RF35mm F1.8 MACRO IS STM RF50mm F1.8 STM
RF70-200mm F2.8 L IS USM RF70-200mm F4 L IS USM
RF85mm F2 MACRO IS STM RF100mm F2.8 L MACRO IS USM
RF-S18-45mm F4.5-6.3 IS STM RF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STM

この一覧を見て、意外に思ったところが2つあります。

ひとつは、EOS R3 や EOS R1 が入っていないことです。EOS R6の初代、EOS R、EOS RP も対象外でした。上位機なら使える、という並びにはなっていません。代わりに EOS R7 と EOS R10 という、APS-Cの入門機から中級機が入っています。この理由は後で調べます。

もうひとつは、レンズが12本に限られていることです。カメラが対応していても、手持ちのレンズが一覧に無ければ使えません。

なぜ EOS R3 と EOS R1 は対象外なのか

公式は、対象外の理由を書いていません。そこで、キヤノンの製品マニュアルにある「メニュー目次:静止画撮影」を機種ごとに開いて、DPRAW設定という項目があるかどうかを数えました。Dual Pixel 3D の入力はDPRAWなので、ここが分かれ目になっていないかを見るためです。

機種 DPRAW設定(公式マニュアル) Dual Pixel 3D
EOS R5 あり 対象
EOS R5 Mark II あり 対象
EOS R6 Mark II あり 対象
EOS R7 あり 対象
EOS R8 あり 対象
EOS R10 あり 対象
EOS R3 なし 対象外
EOS R1 なし 対象外
EOS R6(初代) なし 対象外
EOS R50 なし 対象外
EOS-1D X Mark III なし 対象外

確認できた11機種は、すべて同じ向きにそろいました。分かれ目は機種の格ではなく、そのカメラがDPRAWを記録できるかどうかです。記録できない機種は、Dual Pixel 3D に渡す材料そのものを作れません。APS-CのEOS R7やEOS R10が入っているのも、この2機がDPRAW設定を持っているからだと読めます。

では、上位機のEOS R3とEOS R1になぜDPRAWが無いのか。この2機は積層センサーを積んだ高速連写機です。キヤノンは、DPRAW撮影にすると連続撮影速度が落ち、連続撮影可能枚数が減り、電子シャッターや多重露出やHDR撮影が使えなくなると書いています。速さと引き換えの機能なので、速さを最優先した2機では外されたのではないか、と考えられます。ただしキヤノンがそう説明しているわけではなく、ここは当方の推測です。この読みが正しければ、今後キヤノンが出す高速連写機にもDPRAWは載らないはずです。

きれいに割り切れない機種も1つ残りました。初代の EOS R です。キヤノンのFAQには EOS R でDPRAW機能を設定する手順のページがあるので、DPRAWは使えます。それでも Dual Pixel 3D の対象には入っていません。2018年の機種で、ここだけは別の線が引かれているようです。

仕様表だけを見ると、対応の有無を読み違える

調べる途中で引っかかった点も書いておきます。キヤノンの製品仕様ページで「記録画像タイプ」を見ると、EOS R7・EOS R8・EOS R10 には DPRAW と書いてあるのに、EOS R5 Mark II には書かれていません。EOS R3 や EOS R1 と同じ、JPEG・HEIF・RAW・C-RAW だけの並びです。

それでも EOS R5 Mark II にはDPRAW設定があり、Dual Pixel 3D の対象に入っています。キヤノンのファームウエア更新の説明にも「DPRAW設定時に」という条件が出てきます。仕様表の書き方は機種でそろっていないので、仕様表の一行だけで対応の有無を判断すると間違えます。手元のカメラで確かめるなら、仕様表ではなくカメラのメニューを開くほうが確実です。

当方の組み合わせは EOS R5 Mark II と RF24-105mm F4 L IS USM、それに RF50mm F1.8 STM で、どれも一覧に入っていました。ただしカメラ側はファームウェアが Ver.1.3.1 以上という条件が付いています。試す前に、まずここを確かめる必要がありそうです。

さらに新しい Ver.1.3.2 が2026年9月8日に出ていて、その変更内容に「DPRAW設定時に、撮影中にカメラが再起動することがある現象を修正しました」とあります。Dual Pixel 3D はDPRAWで撮ることが前提なので、10月8日を待たずに上げておくつもりです。

どうやって奥行きを出しているのか

使っているのは、キヤノンのAF技術「デュアルピクセル CMOS AF」です。

撮像素子には画素が並んでいます。その1つひとつに、光を受け取る部品(フォトダイオード)が2つ入っています。この2つが受け取る像はわずかにずれていて、そのずれの量から被写体までの距離を推定できます。カメラがピントを合わせるために使ってきた情報です。

1枚の写真から3Dモデルになるまで
① 撮影 全画素で位相差の情報を取りながら撮る(DPRAW または 距離情報付きJPEG)
② 形に変換 位相差の情報から、独自のアルゴリズムで3Dの形を作る
③ 表面を貼る EOSで撮った実写の画像を、そのまま表面のテクスチャーに使う

ここで押さえておきたいのは、撮影時に写っている範囲だけが3Dになるという点です。1枚しか撮っていないので、裏側や、物の陰になって見えていない部分の情報はありません。公式ページも、死角になった範囲は3Dにできず、被写体が伸びたり歪んだりすることがあると書いています。

写真から3Dを作る方法は、他にどれだけあるのか

この技術だけが特別なわけではありません。写真から3Dを作る方法は、前からいくつもあります。大きく3つに分けられます。

ひとつめは、複数枚から作る方法です。フォトグラメトリと呼ばれます。Apple が macOS と iOS 向けに用意している Object Capture がこれにあたります。公式ドキュメントによれば、いろいろな角度から撮った多数の写真を渡すと、画像どうしの重なっている部分から目印を照合して、3Dモデルを作る仕組みです。動かすには、レイトレーシングに対応した4GB以上のGPUを積んだMac、またはLiDARを搭載した一部のiOS機が要るとされています。

ふたつめは、専用のセンサーで測る方法です。一部の iPhone や iPad に載っているLiDARが代表格で、光を当てて跳ね返るまでの時間から距離を測ります。写真の解析ではなく、測距そのものです。

みっつめは、多くの視点から見た目を再現する方法です。NeRF や 3D Gaussian Splatting と呼ばれる技術で、こちらも多数の写真が要ります。形を作るというより、どの角度から見たらどう見えるかを計算で再現する考え方です。

1枚から作る方法は、すでにあった?

この記事の技術と同じ「1枚でよい」という方法も、先にありました。2つの系統があります。

ひとつは、生成AIが推測する方法です。Stability AI と Tripo AI が2024年3月に公開した TripoSR がその一例で、論文には1枚の画像から0.5秒未満で3Dメッシュを作ると書かれています。写っていない裏側も、学習した内容から「たぶんこうなっているはず」と作ります。

もうひとつが、撮像素子の位相差から出す方法です。そして、こちらはキヤノンが最初ではありません

Google の研究者が2019年に発表した論文に、こう書かれています。

単一のカメラから深度を推定する。近年のカメラのセンサーで一般的になってきた、デュアルピクセルのオートフォーカス用ハードウェアを活用する。
(arXiv:1904.05822 の要旨より・当方訳)

まさに同じ着眼点です。この研究が目的にしていたのは、スマートフォンのポートレートモードで背景をぼかすための深度の推定でした。

先にあった方法と比べて、何が違うのか

並べてみます。

方法 撮る枚数 奥行きの出どころ 要るもの 出力
Dual Pixel 3D(キヤノン) 1枚 撮像素子が実際に得た位相差 対応EOS 8機種+対応RFレンズ12本+Windows 11 OBJ / GLB
フォトグラメトリ(Apple Object Capture) 多方向から多数 画像どうしの重なりから逆算 Mac(4GB以上のGPU)またはLiDAR搭載iOS機 USDZ
LiDAR(スマートフォン) 走査する 専用センサーで測った距離 LiDAR搭載のiPhone / iPad 機器・アプリによる
NeRF / 3D Gaussian Splatting 多数 多視点から見た目を最適化 GPU 形式は実装による
生成AI(TripoSR) 1枚 学習したモデルが推測 GPU(0.5秒未満) 3Dメッシュ
デュアルピクセル深度(Googleの研究) 1枚 撮像素子の位相差 対応するスマートフォン 深度マップ

こうして並べると、Dual Pixel 3D の位置がはっきりします。

優れているところは、まず1枚で済むことです。フォトグラメトリのように被写体のまわりを回りながら何十枚も撮る手間がありません。LiDARのような計測機材も要りません。

次に、奥行きが推測ではないことです。同じ1枚から作る方法でも、生成AIは写っていない部分を学習内容から補います。こちらはカメラが実際に取った位相差の情報を使います。ASCIIの記事も、カメラメーカーならではのやり方だと書いていました。

そして、表面の質感がEOSの実写だという点です。3Dモデルの表面には、撮った写真そのものが貼られます。元の画質がそのまま乗る形です。

Googleの研究との違いは、出口にあります。Googleの研究は深度マップ、背景をぼかすための奥行き情報までで止まっていました。キヤノンはそこから、他のソフトで開ける3Dモデル(OBJ / GLB)まで持っていきました。同じ着眼点でも、届ける先が違います。

撮るときの条件は、どれくらい厳しいのか

一方で、手放しているものもあります。撮影の自由度です。

項目 条件
記録画質 RAW。C-RAW は対象外。DPRAW設定は「する」
HDR撮影(HDR PQ) しない
色空間 sRGB
絞り F5.6以下を推奨。F8より大きい値では3D生成されません
ISO感度 ISO 1600以下を推奨。ISO3200より大きい値では3D生成されません
被写体との距離 焦点距離の5〜10倍(50mmのレンズなら約25〜50cm)
推奨される被写体 植物と料理。マットな質感で、太くて単純な形状
背景 無地で、被写体と色の差があり、影が出ていない状態

推奨ではなく「生成されません」と書かれている条件が2つあります。絞りとISO感度です。暗いところで絞り込んで撮った写真は、そもそも受け付けてもらえません。

苦手な被写体も公式に挙げられています。ボケが大きいもの、死角が多いもの、細い形状があるもの、反射が強いものです。

ここで気づいたことがあります。Apple のフォトグラメトリが苦手とするものと、重なっています。Appleの公式ドキュメントは、一方向に極端に細いもの、反射が強いもの、透明なもの、単色でつるつるしたものを避けるよう書いています。奥行きの出し方はまったく違うのに、苦手なものは似ていました。

なぜ条件がここまで細かいのか。先ほどのGoogleの論文に、ひとつの手がかりがあります。同じ論文が、デュアルピクセルの手がかりから推定する深度には固有のあいまいさがあると書いていました。絞りや距離を狭く指定しているのは、そのあいまいさが出にくい範囲に寄せるためではないか、と考えられます。ただしキヤノンがそう説明しているわけではなく、ここは当方の推測です。

作った3Dモデルは、どこで開くのか

出てくるのは OBJ か GLB の3Dモデル、または MP4 の動画です。OBJ は Blender をはじめ多くの3Dソフトが読めます。GLB は1つのファイルに形と色をまとめた形式で、WebブラウザやARのビューアでそのまま開けます。MP4 はそのままブログやSNSに置けます。

キヤノンが挙げている使い道は2つの層に分かれています。個人向けには、背景を含めたシーン全体の3Dモデルと、主被写体だけを切り出した3Dモデルの2通りを作れること、立体感を強めたり弱めたりして見え方を変えられることが挙げられています。法人向けには、2026年中に提供予定の「Dual Pixel 3D SDK」で、フォトスポットサービス・Eコマース・広告への組み込みが想定されています。

3Dプリントについては、公式に記載がありません。ただし死角が再現されない以上、ぐるりと一周した立体ではなく、手前側の起伏だけを持った形になるはずです。プリントするならレリーフに近いものになると考えられます。3Dプリントの可否は当方の推測で、試してもいません。もしこの読みが外れていて一周した立体が出てくるのなら、公式が「死角は再現されない」と書く必要もないはずです。

この記事で確かめていないこと

  • 実機で試していません。提供開始は2026年10月8日で、この記事はそれ以前に公式ページを読んで書いています
  • 3Dモデルの生成にどれくらい時間がかかるかは、公式ページに記載がありません
  • 出力される3Dモデルのポリゴン数や精度についても、公式ページに記載がありません
  • C-RAW が対象外である理由は書かれていません。公式は「対象外」とだけ記しています
  • 比較に挙げた他社の技術は、公式ドキュメントと論文を読んだだけで、当方はどれも動かしていません
  • 法人向けの「Dual Pixel 3D SDK」は2026年中の提供予定とされていますが、こちらは推奨される被写体などの仕様が異なるとあり、中身は分かりません
  • DPRAW設定の有無は公式マニュアルのメニュー目次で数えたもので、実機で確かめたのは EOS R5 Mark II だけです。EOS R6 Mark III と EOS R8 Mark II は当方では確認できていません
  • EOS R がDPRAW対応なのに対象外である理由は、公式に説明がありません

まとめ〜1枚で済ませる代わりに、何を手放すのか

  • 写真から3Dを作る方法は前からあり、複数枚から作る・専用センサーで測る・多視点から見た目を再現するの3つに大きく分かれる
  • 1枚から作る方法も先にあった。生成AIが推測するもの(TripoSR・2024年)と、撮像素子の位相差から出すもの(Googleの研究・2019年)の2系統
  • Dual Pixel 3D が優れているのは、1枚で済むこと・奥行きが推測ではないこと・表面がEOSの実写であること。Googleが深度マップで止めたところを、3Dモデルまで持っていった
  • デメリットは対象がカメラ8機種とレンズ12本に限られることWindows 11のみでMac版が無いこと、そして撮影条件の厳しさ。F8より絞ると生成されず、ISO3200を超えても生成されない
  • 死角は3Dにできない。1枚しか撮っていないので、裏側の情報は最初から無い

「1枚でいい」という手軽さは、撮り方を細かく決められることと引き換えに成り立っている技術のようです。植物と料理が推奨被写体に挙げられているのも、条件を満たしやすい題材だからだと考えられます。

当方の組み合わせは対象に入っていました。10月8日を過ぎたら、ファームウェアを上げたうえで実際に試してみようと思います。

本記事の内容は2026年9月時点で、公式ページとニュースリリース、および公開されている論文を読んだ調査です。提供開始後に仕様が変わる可能性があります。

参考にしたサイト