Intel Arc B580でできたこと・できなかったこと〜Intel Arc B580ローカルLLM 第7話

2026年8月5日

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以前から使っている NVIDIA GeForce RTX 3090 の隣に、12GB の GPUボード Intel Arc B580 を挿してから、ひと月ほど測り続けてきました。最初は速度がまるで出ず、その原因を探すところから始まりました。PCIe の表示に驚き、モデルの大きさや文脈の長さで速度がどう変わるかを追い、最後は外付けでも使えるのかを試した、という流れです。

結局、Intel Arc B580 はローカルAIに使えるGPUだったのでしょうか。そして、動かなかったものは、カードの性能が足りなかったのでしょうか。5回にわたって測ってきた内容を、できたこと・できなかったこと・その理由に分けて振り返ります。連載の最終回にあたります。

2026年7月時点の内容です。

使用した機器の概要

測定に使ったデスクトップPCは、下記のとおりです。このPCに Intel Arc B580 を追加しました。

CPURyzen 9 3950X
マザーボードX570
メモリー64GB
GPURTX 3090、Intel Arc B580(今回追加)
OSUbuntu

玄人志向 Intel Arc B580 搭載 グラフィックボード GDDR6 12GB AR-B580D6-E12GB/DF

ファンが2つついた、とてもシンプルな見た目のGPUボードです。この1枚で、どこまでローカルLLM(LLM: 大規模言語モデル。文章を生成するAIの本体)を動かせるのかを追いかけました。

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できたこと〜B580で動いたもの

ドライバを1世代上げたら3.3倍になった

最初に測ったときの decode 速度(文章を生成する速さ)は 28.52 tok/s で、手元の RTX 3060 の 90.6 tok/s に遠く及びませんでした。原因は Linux のグラフィックドライバ「Mesa」が1世代古かったことでした。更新後は 94.69 tok/s まで上がり、倍率にして 3.32倍です。設定は何も変えていません。

詳細は 第1話(Mesa更新で3.3倍になった話)に書きました。

12GBに収まるモデルなら、RTX 3060 より速い位置にいる

ドライバ更新後に測り直すと、同じモデルで RTX 3060(CUDA)の 90.6 tok/s に対し、B580 は 94.69 tok/s でした。小さいモデルでは prefill(プロンプトの読み込み)が 2380 tok/s まで出ており、待たされる感覚はほとんどありません。

モデルサイズdecodeprefill
phi4-mini2.4GB79.81 tok/s2380 tok/s
nemotron-3-nano:4b2.4GB95.52 tok/s1650.8 tok/s
qwen3:8b4.5GB60.08 tok/s1192.9 tok/s
Ornith-1.0-9B4.7GB48.03 tok/s1163.4 tok/s
gemma4-12b6.9GB29.95 tok/s396.9 tok/s

この表の数字には条件があります。同じプロンプトを繰り返して測った値です。同じ問いを続けて投げると、読み込み済みの部分が再利用されるため、prefill は速く出ます。

毎回ちがう文章を読ませる使い方では、この速さは出ません。長い文書を要約させる、コードを読ませる、といった用途では入力を毎回読み直すことになり、最初の返事が来るまでの時間は表の値より伸びます。当窓の別の機体では、入力を3万トークン級にすると最初の一文字まで30秒を超える例が出ています(2026年8月時点・別記事で扱います)。

サイズ別の速度と消費電力は 第3話(12GBに収まるモデルの速度と消費電力)にまとめてあります。

CUDA がなくても動いた

Intel の GPU には CUDA(NVIDIA製GPU向けの高速計算基盤)がありません。今回は Vulkan という規格を通して動かしました。同じ RTX 3090 で比べると CUDA の 181.41 tok/s に対し Vulkan は 167.57 tok/s で、差は 7.6% にとどまります。Vulkan だから極端に遅い、ということはないようです。

「Gen1 x1」の表示は見かけだけだった

接続を確認するコマンドで PCIe 1.0 x1 と表示され、故障を疑いました。Intel の公式サポート文書には、Arc シリーズは標準ツールでは常にこの表示になると明記されています。実際には PCIe 4.0 x4 で動いており、転送速度の実測でも裏が取れました。

この件は 第2話(「Gen1 x1」でしかつながらない?)で詳しく追っています。

できなかったこと

長い文脈を持たせると急に遅くなる

モデル本体が 12GB に収まっていても、扱う文脈(会話や文書の長さ)を伸ばすと速度が落ちました。qwen3:14b では、文脈 2048 で 36.11 tok/s だったものが、32768 では 9.00 tok/s まで下がりました。文脈を保持する KVキャッシュ が VRAM に収まりきらず、CPU側へあふれたためです。

文脈長qwen3:14bgemma4-12b
204836.11 tok/s30.54 tok/s
819228.64 tok/s30.51 tok/s
1638413.83 tok/s30.50 tok/s
327689.00 tok/s30.57 tok/s

同じ 12GB でも gemma4-12b はどの文脈長でも 30 tok/s 前後で一定でした。モデルによって KVキャッシュ の食い方が違う点が、この連載でいちばん意外だった箇所です。経緯は 第4話(12GBに収まったのに遅い)に残しました。

ただしこれは容量が足りないというより、KVキャッシュ の持ち方の問題にあたります。KVキャッシュ を圧縮して持つ設定や、モデル側の改良で改善する余地があると考えられます。今の時点で頭打ちと決まったわけではなさそうです。

12GBを超えるモデルは載せられない

VRAM 12GB という容量そのものは動かせません。30B級のモデルを載せようとすると大半が CPU 側へ落ち、速度は実用から外れました。24GB の RTX 3090 と比べると、扱えるモデルの幅でははっきり差がつきます。

Thunderbolt 経由の外付けでは動かせなかった

ミニPC に外付けして使えないかも試しました。ドック経由の Thunderbolt 接続では、GPU の初期化が最後の段階で失敗し、計算までたどり着けませんでした。同じドックでも OCuLink という別の接続方式に変えると動いたため、分かれ目は GPU の世代ではなく接続方式だったと考えられます。

止まった場所は、いずれもドライバやカーネルが現在も手を入れている領域でした。仕様として無理だと確定した箇所ではないため、更新が進めば動くようになる可能性は残っていそうです。実際、この連載の第1話が「ドライバを新しくしたら解決した」という話でした。

3世代のGPUで止まる場所がそれぞれ違った記録は 第5話(外付けGPUがThunderboltで動かない?)にあります。

まだ試せていないこと

B580 と RTX 3090 を同時に使い、1つのモデルを2枚のGPUに分けて載せる構成は、まだ確認できていません。GPUメーカーが異なるため CUDA では組めず、Vulkan で層を分割する形を試すことにしました。準備の段階で必要なファイルが揃わず止まっているため、進展があれば別途記録します。

できなかった理由

今回つまずいた箇所を並べると、原因は大きく4つに分かれるようです。あわせて、それが今後の更新で変わりうるものか、ハードウェアの容量として動かせないものかを分けて整理しました。

できなかったこと理由今後の見込み
最初に速度が出なかったソフトウェア側の対応が後追いだった(B580 は 2024年末の製品で、最適化が Mesa に入るのが遅れていた)更新で解決済み。今後もドライバの改良で伸びる余地がある
長い文脈で遅くなるKVキャッシュ が VRAM に収まらず CPU 側へあふれるKVキャッシュ を圧縮する設定やモデル側の改良で改善しうる
大きいモデルが載らないVRAM 12GB という容量そのもの容量は変えられない。量子化の進歩で「載る大きさ」の側が変わる可能性はある
Thunderbolt で動かないGPU の初期化とドックの応答時間の問題で、カーネル側でも扱いが定まっていないドライバ・カーネルの更新で動くようになる可能性がある

こうして並べてみると、今回の「できなかった」のうち、ハードウェアとして動かせないと言い切れるのは VRAM の容量だけでした。残りはソフトウェア側の事情によるもので、時間が解決する可能性が残っています。

その容量にしても、同じ 12GB に収まるモデルの中身は年々良くなっています。量子化(モデルを軽くする圧縮のような処理)の手法が進めば、去年は載らなかった規模が今年は載る、ということも起きています。12GB で何ができるかは、カードを買った時点で固定される数字ではないようです。

もうひとつ、数字に表れない理由として、ローカルLLM 周辺のツールが NVIDIA の CUDA を前提に作られている点が挙げられます。Intel や AMD のGPUでも動くものは増えていますが、情報の量には差があり、うまく動かないときに参照できる先が少なくなります。

向く使い方・向かない使い方

5回の測定を踏まえると、次のように整理できます。

向く向かない
12GB に収まる小〜中型モデルを、そこそこの速さで動かす長い文書をまとめて読ませる(文脈が長い用途)
短いやり取り中心の用途(prefill が速い)30B級など大きいモデルを動かす
CUDA に縛られず、Linux で使うミニPC に Thunderbolt で外付けする

弱点として、何もしていない状態でも 34W を消費した点が挙げられます。常時つないでおく用途では、この待機電力を見ておいたほうがよさそうです。

コスパで見ると、RTX 3060 12GB とどちらを選ぶか

ここまで測ってきて、いちばん気になったのが「同じ12GBで、価格帯も近い NVIDIA GeForce RTX 3060 12GB と比べてどうなのか」でした。手元には両方あるため、同じ機体で測った値を並べます。

モデルIntel Arc B580RTX 3060 12GB
phi4-mini79.81 tok/s97 tok/sB580 が 17.7% 遅い
nemotron-3-nano:4b95.52 tok/s90.6 tok/sB580 が 5.4% 速い
qwen3:8b60.08 tok/s61 tok/sほぼ互角
Ornith-1.0-9B48.03 tok/s49 tok/sほぼ互角
4モデルの平均70.86 tok/s74.40 tok/s3060 が 5.0% 速い

モデルによって勝ち負けが入れ替わり、平均すると 3060 がわずかに上、という結果でした。第1話では nemotron-3-nano:4b の1モデルだけを見て「B580 が 3060 を上回った」と書きましたが、対象を増やすと互角に近いあたりに落ち着くようです。B580 のメモリ帯域は 456GB/s で 3060 の 360GB/s を上回るため、ハードウェアの数字ほどには差が出ていない、とも言えます。

なお qwen3:14b は測定時の文脈長の条件が揃っていないため、この比較からは外しました。

価格を調べてみた

価格は実測ではなく、2026年7月時点で調べた値です。中古は相場に幅があるため、目安として見てください。

製品状態価格の目安
Intel Arc B580(今回使用の AR-B580D6-E12GB/DF)新品約48,000円
NVIDIA GeForce RTX 3060 12GB新品約39,000円
NVIDIA GeForce RTX 3060 12GB中古約20,000〜39,000円(相場は30,000円前後)

先ほどの平均速度を価格で割ると、次のようになりました。

[kimono_bar title="1万円あたりの生成速度(大きいほどお得)" unit="tok/s per 1万円" highlight="3″ note="4モデルの平均decode速度 ÷ 価格。速度は同一機体での実測、価格は2026年7月時点の調査値。"]
Intel Arc B580(新品 約48,000円) | 14.6
RTX 3060 12GB(新品 約39,000円) | 19.1
RTX 3060 12GB(中古 約30,000円) | 24.8
[/kimono_bar]

今回の測定結果を踏まえると、ローカルLLMを動かす目的に限れば、RTX 3060 12GB のほうがコスパが良いと言えるだろうと考えています。理由は4つあります。

  1. 速度が互角だった。平均では 3060 がわずかに上で、価格差を覆すほどの差は B580 側に出ませんでした
  2. 価格が1万円ほど安い。中古なら差はさらに広がります
  3. CUDA が使える。ローカルLLM の周辺ツール、たとえば画像生成の ComfyUI なども同じ1枚でまかなえます。B580 は Vulkan で動かす形になり、対応していないツールが残ります
  4. 導入でつまずきにくい。B580 は Ubuntu の標準状態ではドライバが古く、本来の3分の1程度の速度しか出ませんでした。3060 では、そうした前準備は要りませんでした

それでも B580 を選ぶ理由

とはいえ B580 が不利なだけの選択肢だとも思っていません。3060 は発売から年数が経っており、新品の流通は細く、中古が主体です。中古には保証や使用状況の不安がつきまといます。B580 は現行品として新品で買え、保証も付きます。

もうひとつは伸びしろです。この連載の第1話で、ドライバを1世代上げただけで 3.32倍になりました。B580 向けの最適化は現在も進んでおり、今後の更新でこの比較が変わる可能性があります。一方の 3060 は成熟しており、これ以上大きく伸びる場面は考えにくいところです。

整理すると、今すぐ確実に動かしたい人には 3060、新品で買いたい人や今後の改善に付き合える人には B580、という分かれ方になりそうです。CUDA を必要とするツールを使う予定があるかどうかも、判断の分かれ目にあたります。

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この連載で言えないこと〜半年後には変わりうる

この連載の結果は、あくまで2026年7月時点のものです。動かなかった理由の多くは、カード側の性能ではなく周辺のソフトウェアの側にありました。第1話がまさにその例で、原因は Linux 側のドライバが1世代古かっただけです。

そのため、更新が進めば違う数字になりえます。Thunderbolt 経由の外付けも、長い文脈での速度も同様です。半年後に同じ測定をしたら結論が変わっていた、ということは十分にありえます。

測ったのは1台の構成だけです。デスクトップ(X570・Ryzen 9 3950X)に直挿しした B580 と、EVO-X2 に外付けした構成に限られます。他の機体では違う結果になる可能性があります。

まだ調べていないことも残っています。2枚のGPUに分けて載せる構成や、設定による高速化については、引き続き調べていきます。状況が変わったときには、同じ条件で測り直して記録します。

まとめ:ドライバさえ新しければ、12GBの範囲では素直に動く

Intel Arc B580 は、ドライバさえ新しければ、12GB に収まる範囲では素直に動くGPUでした。最初の 28.52 tok/s を見た時点では失敗した買い物かと思いましたが、原因はカード側ではなく、Linux 側のドライバが1世代古かっただけでした。

一方で、12GB を超える使い方と、Thunderbolt 経由の外付けは、今回の構成では届きませんでした。ただしこの連載で分かったのは、動かなかった理由の多くが、カード側の性能ではなく周辺のソフトウェアの側にあった、ということです。第1話がまさにその例で、原因は Linux 側のドライバが1世代古かっただけでした。

そのため今回の結果は、あくまで 2026年7月時点のものだと考えています。Thunderbolt 経由の外付けも、長い文脈での速度も、更新が進めば違う数字になるかもしれません。半年後に同じ測定をしたら結論が変わっていた、ということは十分にありえます。

2枚のGPUに分けて載せる構成や、設定による高速化についても、引き続き調べていきます。状況が変わったときには、同じ条件で測り直して記録します。

連載の一覧

参考にしたサイト

Why Is My System Reporting PCIe Gen 1×1…? — Intel 公式サポート 000094587
intel.com
Arc は標準ツールで常に「Gen1 x1」と表示される仕様であること、真値は最下段ブリッジに出ることの一次情報。
Linux 7.1 Helping Intel Arc Battlemage Graphics Achieve Better Performance — Phoronix
phoronix.com
カーネル更新は Vulkan スループットにほぼ寄与せず、Mesa 26.1 への移行でテキスト生成が高速化したという検証。
Current status of Intel Arc GPUs for llama.cpp — GitHub Discussion #12570
github.com / ggml-org/llama.cpp
Arc での Vulkan と SYCL の比較を含む、llama.cpp 開発コミュニティによる現状整理。
kisak-mesa (Updated Mesa PPA) — Launchpad
launchpad.net
連載第1話で Mesa 25.2.8 → 26.1.5 の更新に使った配布元 PPA。

それでも外付けで使いたい場合、いま選ぶなら

ここまでで、Thunderbolt経由の外付けではGPUの初期化に失敗しました。ただし「外付けそのものが駄目」という話ではありません。接続の方式を変えると結果が変わります。

手元では、同じカードをOCuLinkでつないだ場合に動いています。実測した値を並べます。

接続結果実測した内容
Thunderbolt / USB4初期化に失敗カードは見えてドライバも組み込まれるが、計算を始める前で止まる
OCuLink動くPCIe Gen4 x4でリンク・最小の計算が3回とも正常・VRAM 11,911MiBを確保

現状では、外付けで使うならOCuLinkを選ぶほうが確実だと考えています。根拠は上の実測です。同じカード・同じ機体で、接続の方式だけを入れ替えて比べました。

OCuLinkは、パソコンの内側にあるPCIeの信号を、そのまま外へ引き出す規格です。Thunderboltのように途中で別の仕組みへ変換しないぶん、素直につながります。必要なものは、GPUを収める箱と、本体側から信号を取り出す変換アダプタ、それをつなぐケーブルの3つです。

ただし変換アダプタは型で結果が変わりました。基板が直接ささる型は安定しましたが、細いケーブルで伸ばす型(フレキ型)は起動しないことがあります。ここは値段の差が小さいので、基板直結型を選んでおくほうが無難です。

なお、Thunderbolt側については後日あらためて調べ直し、こちらの設定が原因だった部分も見つかりました。そちらは別の記事にまとめています。

検証に使用した機材

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