Valveの新VR HMD、Steam Frame は何ができる?〜主要なヘッドセットと仕様を比べてみた
VRのヘッドセットを買い替えるとき、新機能や画面の綺麗さも気になるところですが、いま使っている周辺機器が流用できるのか、という点も気になるところです。もうすぐ Valve から Steam Frame という新しいヘッドセットが発売になります。
公式の仕様表を読むと、視線を追うカメラを内側に2台積んでいます。その一方で、外向きのカメラは4台ともモノクロで、外の景色に色は付きません。体に付けるトラッカーや、顔を追う装置は、この機械でどうなるのでしょうか。
本記事では、Steam Frame の公式仕様と開発者向けの文書を読み、視線追跡(フェイトラ)・全身追跡(フルトラ)・パススルー(AR)・Linuxで使えるかの4つの軸で、主要なヘッドセットと並べた内容を記録します。重さや解像度は表に入れるだけにして、本文はこの4つに割きます。
2026年9月時点の内容です。
何を調べたか〜4つの軸と情報源
最初に、この記事の性質を書いておきます。Steam Frame は 2026年9月7日の時点で発売されていません。したがって本記事は全編が調査で、速度や着け心地といった手を動かさないと分からない話は扱いません。
Steam Frame の仕様は、Valve の製品ページから取りました。このページは JavaScript で描画されるため、そのまま読むと本文が出てきません。HTMLに埋め込まれたデータを取り出して、仕様表の項目を全件そろえたうえで読んでいます。本文で「公式に書かれている」と述べるときは、この仕様表か、Steamworks の開発者向けページを指しています。報道や解説記事しか出どころが無いものは、その旨を書き添えます。
他の機種は、Quest 3 と Quest 3S が Meta の比較ページ、Bigscreen Beyond 2 が Bigscreen の直販ページ、Valve Index が Valve の製品ページです。重さや視野角のように、メーカーが数値を公表していない項目もありました。その場合は第三者の集計であることを本文に書き、確定できないものは【未確認】と記します。
比較する機種は Steam Frame、Quest 3、Quest 3S、Quest 2、Bigscreen Beyond 2(2e)、Valve Index の6台です。Quest 2 を含めたのは、当ブログで以前から扱ってきた機種だからです。
Steam Frame が積んでいるもの
本体の仕様
| プロセッサ | Snapdragon 8 Gen 3(4nm)/アーキテクチャは ARM64 |
| メモリ | 16GB ユニファイドメモリ(LPDDR5X) |
| ストレージ | 256GB / 1TB(UFS)/microSD カードのスロット |
| 電源 | 充電式 21.6Wh リチウムイオン電池/背面に USB-C 2.0 が1口(充電とデータ用)/15V 3.0A(最大45W)で充電 |
| 画面 | 片目あたり 2160×2160 ピクセルの液晶 |
| リフレッシュレート | 72〜144Hz(144Hz は実験的と公式に併記) |
| レンズ | 独自のパンケーキレンズ/視野角は最大110度 |
| トラッキング | インサイドアウト(カメラ方式)。この一行だけが書かれています |
| カメラ | 外向きモノクロ 4台(本体とコントローラの追跡)/内側 2台(視線追跡と中心窩配信) |
| パススルー | 外向きカメラによるモノクロのパススルー |
| 暗所 | 赤外線の照射器(追跡とパススルーに使う) |
| 拡張 | 前面に利用者が使える拡張ポート/高速カメラ 2系統(8レーン @2.5Gbps MIPI)または PCIe Gen4(1レーン) |
| 無線 | Wi-Fi 7(2×2)。無線が二重で、5GHz の Wi-Fi と 6GHz の VR 配信を同時に扱う/Bluetooth 5.4/コントローラ用に 2.4GHz の専用リンク |
| 無線アダプタ | 同梱/Wi-Fi 6E(6GHz)/ヘッドセットとPCを直に繋ぐ |
| ヘッドストラップ | スピーカーと充電池を内蔵。単体で 245g。本体から切り離せる |
| 寸法・重さ | 175×95×110mm/440g(本体+ヘッドストラップ)/185g(本体のみ) |
| OS | SteamOS 3(Arch ベース)/デスクトップは KDE Plasma |
重さの欄には2つの数字が並んでいます。ヘッドストラップまで含めた 440g と、本体だけの 185g です。ヘッドストラップは切り離せると書かれているので、別のかぶり方を選ぶ余地が残されている形でした。リフレッシュレートは 72〜144Hz で、上限の 144Hz については実験的だと公式が括弧で添えています。
コントローラの仕様
| 追跡 | 6-DOF と慣性センサー。ヘッドセット側のカメラから追う |
| ボタン | ABXY(右)/十字キー(左)/フルサイズの磁気式スティック(TMR・静電容量タッチ)/左右のアナログトリガーとバンパー/2段のグリップボタン |
| 指の追跡 | 全入力面の静電容量検出による指トラッキング |
| 接続 | ヘッドセットの専用無線への 2.4GHz リンク |
| 寸法・重さ | 126×73×87mm/電池込み 130g、電池抜き 107g |
| 電源 | 単3電池 1本(交換式)で 約40時間 |
カメラによる素手の追跡、いわゆるハンドトラッキングについては、公式の仕様表に記載がありません。外向きカメラ4台の用途は「本体とコントローラの追跡」と書かれています。指を読む役目は、コントローラ側の静電容量センサーが担います。素手で操作できるかどうかは【未確認】として扱います。
発売日と価格は?
どちらも【未確認】です。公式の製品ページに日付の記載は無く、あるのは「The Steam Hardware family officially expands in early 2026.」という発表当時の文面だけでした。金額の記載もありません。ページの末尾には、仕様が変わりうる旨の注記が付いています。
日本での取り扱いについては、公式に「The new Steam Hardware will be available via KOMODO in Japan, South Korea, Taiwan & Hong Kong.」と書かれています。取扱窓口は決まっているものの、日本での価格や予約開始日は同じく【未確認】です。値段の予想を伝える記事はいくつも見つかりましたが、一次で裏を取れなかったため、本記事では金額を書きません。
視線追跡は、アバターの目まで届く?
1本目の軸です。内側にカメラが2台あるのは公式に書かれています。ただし、公式が説明している用途は中心窩配信で、見ているところだけ高い画質で送るという、通信量を減らすための仕組みです。アバターの表情の話は、製品ページには出てきません。
Valve が名指しした仕組み
製品ページには無くても、開発者向けの文書には書かれていました。Steamworks の Steam Frame 開発者向けページに、次の一文があります。
Our current support for eye tracking uses the XR_EXT_eye_gaze_interaction OpenXR extension.
OpenXR というのは、いろいろなVR機器を同じ書き方で扱うための共通の窓口です。その窓口に足す拡張のひとつが XR_EXT_eye_gaze_interaction で、Valve は自分の文書でその名前を挙げています。Godot 向けのページでは「Steam Frame supports Eye Tracking in Godot using the Eye Gaze Interaction extension.」と書かれ、設定画面のどこで有効にするかまで案内されていました。
ここまでは、報道ではなく Valve 自身の文書です。視線のデータがアプリから読めるかどうかについては、読める形が用意されていると言ってよさそうです。
その仕組みで取れるもの、取れないもの
ところが、この拡張が渡してくれるものには限りがあります。OpenXR の仕様本文を読むと、用途として挙がっているのは「aiming or targeting」、狙いを付ける操作のほうでした。渡されるのは両目を合成した1本の視線で、その視線は「両目のあいだに置かれた点から出ている」と説明されています。
左右それぞれの目線、まぶたの開き具合、瞳孔の大きさは、この拡張には含まれません。視線を追う機器は世の中にいくつもありますが、社交の場でアバターの表情に使う用途は別の拡張が担当する、という役割分担がされています。Meta の開発者向け文書も、社交用には別の拡張を用意していると明記しています。
VRChat 側の受け口
受け取る側も見ておきます。VRChat の公式ドキュメントには、視線のデータを OSC という仕組みで受け取れると書かれています。ただし、そのすぐ後にこう続きます。
This is an advanced feature! It is NOT plug-and-play. You must create your own program to transmit this data to VRChat using OSC.
繋ぐだけで動くものではなく、機器から読んで OSC で送るプログラムを誰かが用意する必要がある、という説明です。受け口として用意されているアドレスは次の通りです。
| まぶた | /tracking/eye/EyesClosedAmount(0〜1 の値) |
| 目の向き(1つだけ選ぶ) | /tracking/eye/CenterPitchYaw / CenterPitchYawDist / CenterVec / CenterVecFull / LeftRightPitchYaw / LeftRightVec |
10秒のあいだデータが届かないと、自動の目線と自動のまばたきに戻る、とも書かれています。
視線データが通る道
ここまでを1本に繋いで並べてみます。
EyesClosedAmount に入れる材料が、拡張の側に含まれていない
この図から読み取れることを、そのまま書きます。【推測】仕組みの上では、アバターの目を動かす形は用意されています。合成1本の視線という形は、VRChat 側の CenterPitchYaw という受け口と噛み合っています。足りないのは、その2つを繋ぐプログラムです。未発売の機器なので、まだ誰も書いていないと考えられます。
一方で、まばたきはこの経路では取れません。拡張がまぶたのデータを持っていないため、EyesClosedAmount に入れる値の出どころがありません。目は動くけれど、まばたきは自動のまま、という形が【推測】として残ります。フェイトラのどこまでを求めるかで、評価が変わる部分です。
フェイトラそのものについては、何を買えばいいかを調べた記事があります。ゴーグルを被ったままアバターの表情を動かしたい〜フェイトラは何を買えばいいのか調べたのほうも合わせてどうぞ。
顔の追跡は、そもそも積んでいるのか
視線と顔は別物です。口の開き方、頬の動き、眉の上げ下げを読むには、口元を写すカメラが要ります。
Steam Frame の公式仕様表に、顔を追う機構の記載はありません。内側のカメラは2台とも視線追跡と中心窩配信の用途として書かれており、口元を写す位置にカメラがあるとは書かれていません。無いものは無い、と書いておきます。
ただし、後から足す余地はあります。公式仕様に「前面に利用者が使える拡張ポート」という項目があり、高速カメラ2系統(8レーン @2.5Gbps MIPI)または PCIe Gen4(1レーン)と書かれています。カメラを繋ぐことを想定した口が最初から用意されている形です。ここに顔を追う装置が付く余地はある、というのが当方の【推測】です。2026年9月7日の時点で、そうした製品の発表は見つかりませんでした【未確認】。
他の機種の状況も並べておきます。Quest Pro は内向きカメラで顔と視線の両方を読める、Meta では唯一の機種でした。Quest 3 と Quest 3S には内向きカメラがありません。Meta の開発者向け文書には、内向きカメラの無い機種ではマイクの音から表情を推定する、と書かれています。カメラで見た顔ではなく、声から当てにいく仕組みです。Bigscreen Beyond 2e は視線を追いますが、顔を追う機構は持っていません。Valve Index はどちらも持っていません。
フェイトラの道具は Linux で動く?
Steam Frame の中身は SteamOS で、これは Linux です。フェイトラの道具がそこで動くかどうかは、この機械にとって具体的な問題でした。
VRChat で顔や目を動かすときによく使われるのが VRCFaceTracking という中継ソフトです。機器からデータを読み、VRChat へ OSC で流す役をします。Steam に置かれている本家の動作環境欄は、2026年9月7日の時点で 「OS: Windows 10/11」 だけでした。SteamOS や Linux の記載はありません。
ところが、開発の側では動きがありました。Linux 対応を求める要望は 2024年2月から出ていましたが、2026年8月13日に「completed」として閉じられています。終了時に作者が残したコメントは、次の通りでした。
We now have an experimental avalonia branch on Steam. Please feel free to give it a try whilst we iterate on it. Eventually, we will be switching our UI framework away from WinUI3 and Avalonia will be our target.
Avalonia というのは、同じプログラムを Windows でも Linux でも動かせるようにする画面まわりの部品です。実験的な枝が Steam に置かれ、いずれそちらへ移す、と作者が書いています。「Windows専用のまま」でも「もう Linux 対応済み」でもなく、移行の途中という状態です。それより前から、有志の手による VRCFaceTracking.Avalonia という移植が Windows と Linux と macOS で配られていました。Linux 生まれの代替として OscAvMgr というものもあります。どちらも公式のものではありません。
顔を追う装置そのものを後から足す道としては、Project Babble の Baballonia があります。公式の説明では「cross-platform, hardware-agnostic XR eye and face tracking application」とされ、特定のヘッドセット専用ではないという立て方をしています。カメラをヘッドセットの下に付けて顔を写す形で、決まった付け方は無いので置き場所は試して決める、と公式が書いています。VRChat へは VRCFaceTracking のモジュール経由か、OSC で直接送る2通りがあります。
配布物を見ると、最新は v1.1.1.0rc6(2026年3月12日)でした。Windows のインストーラと Linux の tarball が並び、Linux 側には x64 と arm64 の両方が置かれています。Steam Frame の中身は ARM64 の SteamOS なので、Frame 自身の上で動く目はある、というのが当方の【推測】です。対応表に Steam Frame の名前はまだ載っておらず、誰も試していない段階です。
ベースステーションのことは、公式に書かれていない
2本目の軸、全身追跡に入ります。まず、事実の確認からです。
公式仕様表のトラッキング欄に書かれているのは、「インサイドアウト(カメラ方式)」の一行だけでした。ベースステーション、あるいは Lighthouse という言葉は、製品ページのどこにも出てきません。数えたところ0回です。外向きカメラ4台の用途は本体とコントローラの追跡と書かれ、暗いところ用の赤外線の照射器については、追跡とパススルーのためと書かれています。
したがって、この記事では「ベースステーションが使えない」とは書きません。言えるのは「公式に記載がない」までです。使えるかどうかは【未確認】として扱います。
ベースステーションは、追跡する装置ではない
ここで、仕組みのほうを押さえておきます。名前から誤解されやすい部分です。
ベースステーション(Lighthouse)は、部屋の角に置いてレーザーを掃くだけの装置です。灯台に近い役目で、PCへデータを送りません。位置を計算しているのは、そのレーザーを浴びる側、ヘッドセットやトラッカーのほうです。受ける側にはレーザーを読むセンサーが並んでいて、光が当たった順番と時間差から自分の位置を割り出します。
Steam Frame の本体は、外向きカメラ4台で自分の位置を測る作りです。ベースステーションが要らない設計です。受光センサーを持っているかどうかは、公式に書かれていないため分かりません。
本体には要らないのに、トラッカーのために置くのか
ここに、この記事でいちばん引っかかった話があります。
ベースステーションが要らない作り
ベースステーションが要る
この問いへの答えは、いまの情報では出せない
フルトラの定番であるトラッカーの一群は、ベースステーションを前提にしています。ところが Steam Frame の本体は、それが要らない作りです。本体には要らないものを、トラッカーのためだけに部屋へ置くことになるのかどうか。ここが判断の分かれ目になりそうです。この記事で答えは出せません。出せないということを、はっきり書いておきます。
単体で使うときと、PCから配信するときの違い
この2つを分けずに読むと、話がひとつ手前で止まります。
Steam Frame は単体で動くヘッドセットで、SteamOS が中で走っています。同時に、PCから映像を送って使う道も公式に用意されており、製品ページには「Stream from your PC, laptop, Steam Deck or Steam Machine」と書かれています。この2つで、トラッカーの扱いが変わります。
| 単体で使う | 頭とコントローラ以外を追う手段を、Frame の外に足す必要がある。ベースステーションが要らない方式のトラッカーか、VRChat の OSC トラッカーが候補 |
| PCから配信して使う | PC側で SteamVR が動くため、トラッカーの位置は PC側で扱われる。【推測】理屈の上では、PCにベースステーションとトラッカーを繋いでおけば足や腰は追える |
ただし条件が付きます。本体は自分で自分の位置を測り、トラッカーはベースステーションを基準に測るため、2つの物差しを重ねる作業が要ります。Quest でも同じ問題があり、OpenVR Space Calibrator という有志の道具で解かれてきました。Monado や WiVRn を使う構成では Motoc という道具が同じ役割をします。第三者の報告は、ほとんど使い物にならないという声と、使えるが定期的に取り直しが要るという声に割れていました。Steam Frame で同じ手が使えるかどうかは【未確認】です。
フルトラの機器が Linux で動くかどうかは、調べる量が増えたため別記事に切り出しました。SlimeVR・HaritoraX・Vive Tracker・Tundra Tracker・PICO Motion Tracker・カメラ式を機器ごとに比べています。
外は見えるのか〜パススルーはモノクロ
3本目の軸です。ヘッドセットを被ったまま外の景色を見る機能を、パススルーと呼びます。
公式が書いていること
Steam Frame の公式仕様表には、パススルーの欄が独立して置かれています。書かれているのは次の一行です。
Monochrome passthrough via outward facing cameras
外向きカメラによるモノクロのパススルー、と明記されています。カメラの欄にも「4x outward facing monochrome cameras」とあり、外向きは4台ともモノクロです。外は見えます。ただし、色は付きません。
「周りを確認する」と「現実に物を重ねる」
ここで、パススルーの用途を2つに分けて考える必要があります。同じ機能の話に見えて、求められるものが違うためです。
| 用途 | 何をするか | Steam Frame では |
|---|---|---|
| 周りを確認する | 手元のキーボードやコントローラを見る。人が入ってきたのに気づく。障害物を避ける | 白黒で足りる用途。公式がパススルーを明記しているので、ここは見込みが立つ |
| 現実に物を重ねる(本来のAR) | 色のついた現実へ映像を重ねる。机の面を認識して、その上に物を並べる | 色が付かないため、Quest 3 のような使い方には向かない。平面や奥行きを把握する仕組みについても公表がない【未確認】 |
当ブログの読者にとって実務的なのは、上の段のほうだと考えています。手元のパソコンでAIを動かしながらヘッドセットを被る場合、キーボードやコントローラが見えるかどうかが使い勝手を左右します。この用途なら、白黒でも困りません。飲み物を取る、席を立つ、といった動作も同じです。
下の段は事情が違います。現実の机の上に映像を並べるような使い方では、色と、空間の形の把握が要ります。Steam Frame は色が付かず、平面認識についての公表もありません。色が付かないため、Quest 3 のような使い方には向きません。
機種ごとのパススルー
| 機種 | パススルー | 空間の把握 |
|---|---|---|
| Steam Frame | モノクロ(公式が明記) | 公表なし【未確認】 |
| Meta Quest 3 | カラー+深度センサーを持つとされる(第三者) | 奥行きを取り、現実に物を置けるとされる |
| Meta Quest 3S | カラー。深度センサーは持たないとされる(第三者) | Quest 3 より落ちるとされる |
| Meta Quest 2 | モノクロ(第三者) | ほぼ「周りを見る」用途 |
| Bigscreen Beyond 2 / 2e | 公式仕様に外向きカメラの記載がない【未確認】 | — |
| Valve Index | 前面カメラによる白黒の映像(第三者) | 用途は周囲の確認 |
この表のうち、Steam Frame の行だけが公式仕様からの引用で、他の機種は第三者による記載を並べました。深度センサーの有無についても、Meta の比較ページには項目が無く、第三者の記事を出どころにしています。そのうえで言えることを書きます。パススルーの土俵では、Steam Frame は Quest 2 と同じ段に立っています。2020年に出た Quest 2 と、色の有無という点では同じです。
ここから読めるのは、【推測】Steam Frame は AR を取りに行っていないということです。カメラの数や配置には手をかけた形跡がありますが、その先が色ではなく、配信の質のほうへ向いています。中心窩配信という仕組みも、外の景色をどう見せるかではなく、PCから送る映像をどう良くするかの話でした。
Linux で使えるか
4本目の軸です。当ブログの本業はローカルAIで、そのために Ubuntu を入れたデスクトップPCを使っています。ローカルAI環境を丸ごと公開〜Ubuntu+RTX 3090+Ollama+ComfyUIの構築実例で組み方を書いた、あのPCです。そこから Steam Frame へ映像を送れるのかどうかは、当方にとって切実な問いでした。
手掛かりは、公式が挙げている配信元の並びにあります。「PC・ラップトップ・Steam Deck・Steam Machine」の後ろ2つは、どちらも SteamOS で動く機械です。Frame 自身の OS 欄も SteamOS 3 と書かれています。【推測】Linux のパソコンから配信することは、Valve が想定している範囲に入っていそうです。ただしこれは SteamOS の機械を挙げているだけで、一般の Ubuntu で動くという保証ではありません。
他の機種はどうでしょうか。Meta の純正の接続方法は、公式ヘルプの対応OS欄が「Windows 10、Windows 11」だけで、Linux の記載がありません。Bigscreen Beyond 2 も、公式の動作環境が Windows 10/11 のみです。Valve Index については SteamVR の Linux 版がありますが、Valve 自身が「This is a development release.」「Limited hardware support is provided.」と書いています。Linux で VR をやろうとすると、機種を問わず何かしらの但し書きが付いてくる、というのが現在地です。
Quest系のヘッドセットを Ubuntu へ繋ぐ話については、別に1本を用意しています。Meta 純正の道が Linux では使えないこと、その代わりに何が残っているかを調べた記事です。
主要なヘッドセットと並べた
軸が多く1枚には収まらないため、3枚に分けました。重さや解像度はここに置くだけにします。
体〜重さと画面
| 機種 | 重さ | 解像度(片目) | 視野角 | リフレッシュレート |
|---|---|---|---|---|
| Steam Frame | 440g(本体+ヘッドストラップ)/185g(本体のみ) | 2160×2160 ピクセル | 最大110度 | 72〜144Hz(144Hz は実験的) |
| Meta Quest 3 | 515g(第三者) | 2064×2208 ピクセル | 水平110度/垂直96度 | 72 / 90 / 120Hz |
| Meta Quest 3S | 514g(第三者) | 1832×1920 ピクセル | 水平96度/垂直90度 | 72 / 90 / 120Hz |
| Meta Quest 2 | 503g(第三者) | 1832×1920 ピクセル | 約97度【未確認】 | 72 / 90Hz(120Hz は実験的) |
| Bigscreen Beyond 2 / 2e | 107g / 108g(本体のみ) | 2560×2560 ピクセル | 対角116度/水平108度/垂直96度 | 75Hz / 90Hz |
| Valve Index | 809g【未確認】 | 1440×1600 ピクセル | 【未確認】 | 80 / 90 / 120 / 144Hz |
重さの数字は、機種によって出どころが違います。Steam Frame は公式仕様表に 440g と 185g の両方が載っています。ところが Valve Index と Quest 各機については、Valve も Meta も本体の重量を公表しておらず、表の数字は第三者の集計です。視野角も同じ事情で、Valve は Index の視野角を数値で出しておらず、第三者の側では約130度という記載と108度という記載に割れていました。片方を選んで書くと嘘になるため【未確認】としています。Quest 2 の視野角も Meta は非公表です。
4つの軸
| 機種 | 視線追跡 | 顔追跡 | フルトラの可否と条件 | パススルー | Linux |
|---|---|---|---|---|---|
| Steam Frame | 有り(内側カメラ2台)。XR_EXT_eye_gaze_interaction で読める | 無し。拡張ポートに足す余地は在る【推測】 | ベースステーションのことは公式に記載なし【未確認】。単体なら体に付ける方式、PCから配信するなら PC側の SteamVR が扱う【推測】 | モノクロ(公式が明記) | SteamOS。配信元に SteamOS の機械が公式に挙がる |
| Meta Quest 3 | 無し | 無し(マイクの音から推定する仕組みは在る) | カメラで上半身、脚は推定。実際のトラッカーは外付け | カラー+深度センサー(第三者) | 純正の案内は Windows のみ。別経路あり |
| Meta Quest 3S | 無し | 無し(同上) | 同上 | カラー。深度センサーは無しとされる(第三者) | 同上 |
| Meta Quest 2 | 無し | 無し | カメラで胴を追う機能が無く、脚は推定 | モノクロ(第三者) | WiVRn の対応表で対応と記載 |
| Bigscreen Beyond 2 | 無し | 無し | ベースステーションが要る。Vive トラッカーが使える | 公式仕様に記載なし【未確認】 | 公式の案内は Windows のみ |
| Bigscreen Beyond 2e | 有り。公式が「blinking and VRCFT integration」に対応と記載 | 無し(外付けで足す) | 同上 | 公式仕様に記載なし【未確認】 | 同上 |
| Valve Index | 無し | 無し | ベースステーション+Vive トラッカーが最も素直。座標を合わせる作業が要らない | 前面カメラの白黒映像(第三者) | SteamVR の Linux 版(開発版) |
この表でいちばん気をつけたいのは、「視線追跡あり」の中身が機種で違うところです。Bigscreen Beyond 2e は、まばたきと VRCFaceTracking への連携に対応していると公式ページに書かれています。アバターの表情まで届く道が、作っている側から用意されている状態です。Steam Frame のほうは、Valve が拡張の名前まで明記したものの、その拡張はまばたきを含まず、繋ぐプログラムもまだありません。同じ「視線追跡あり」でも、いまアバターに届いているのは Beyond 2e のほうで、Steam Frame は【推測】の段階という差が残ります。
つなぎ方と値段
| 機種 | 無線の作り | 単体で動くか | PCと繋ぐ道 | 価格 |
|---|---|---|---|---|
| Steam Frame | 無線が二重(配信用と家庭のWi-Fi)。Wi-Fi 7。専用アダプタ同梱 | 動く(SteamOS 3・16GB) | 配信(PC・ラップトップ・Steam Deck・Steam Machine) | 【未確認】 |
| Meta Quest 3 | Wi-Fi | 動く | 純正の Link / Air Link(Windows 10/11 のみ)/Steam Link/WiVRn | ¥102,300(512GB) |
| Meta Quest 3S | Wi-Fi | 動く | 同上 | ¥59,400(128GB)/¥77,000(256GB) |
| Meta Quest 2 | Wi-Fi | 動く | 同上 | 販売終了(2024年9月)。中古のみ【未確認】 |
| Bigscreen Beyond 2 / 2e | 無し(有線のみ) | 動かない | DisplayPort 1.4 + USB 3.0 | $899/2e は +$200/2e VRChat Edition は +$250。ベースステーションとコントローラは別売 |
| Valve Index | 無し(5m の有線) | 動かない | DisplayPort 1.2 + USB 3.0 | フルキット $999(発売時)。販売終了とされる |
Quest の価格は Meta の比較ページに載っている日本円です。Quest 3 は比較ページに 512GB の構成しか出ておらず、他の容量の現行価格は【未確認】としました。Bigscreen の価格は直販ページの表示で、2e は基本モデルからの追加額として出ています。この機種はベースステーションとコントローラが別売なので、一式そろえるとさらに積み上がります。
どれを選ぶと、何が付いてくるのか
優劣を付けるつもりはありません。この6台は狙っているところが違い、どれを選んでも取れるものと制約が同時に付いてきます。整理すると次のようになりました。
| 選ぶもの | 取れるもの | 付いてくる制約 |
|---|---|---|
| Steam Frame | 単体で動く/無線が二重で配信が独立している/片目 2160×2160 ピクセル/440g/視線追跡のハードを積む/SteamOS の機械からの配信を公式が想定 | ベースステーションのことが公式に書かれていない【未確認】/顔追跡は無い/視線をアバターへ渡す中継がまだ無い/パススルーがモノクロで、色を使う使い方に向かない/発売日も価格も【未確認】 |
| Quest 3 / 3S | 値段が手頃/単体で動く/カメラで上半身が動く/カラーのパススルー(3 は深度センサーもあるとされる)/使っている人が多く情報が集まる | 視線も顔も無い/純正のPC接続の案内は Windows のみ/フルトラは外付け+座標合わせ |
| Quest 2 | もう持っている/Linux 側の WiVRn が対応している | 単体ではフルトラもフェイトラもできない/パススルーはモノクロ/機能の更新が2026年12月で終わるとされる |
| Bigscreen Beyond 2e | 107g という軽さ/片目 2560×2560 ピクセル/まばたきと VRCFT 連携に公式対応=表情まで届く | ベースステーションが要る(別売)/有線のみ/単体で動かない/パススルーは公式仕様に記載がない【未確認】/公式の動作環境は Windows のみ |
| Valve Index | ベースステーション+Vive トラッカーが最も素直/144Hz | 販売終了とされる/有線/重い/視線も顔も無い |
Steam Frame について、フルトラとフェイトラと AR を捨てた機械だ、という書き方はできないと考えています。振らなかったのは、色のついたパススルーのほうで、AR を取りに行っていません。代わりに取ったのが単体で動くことと、二重の無線による配信の質です。視線のハードは積んでいて、開発者が読む道も公式に用意されています。ただ、そこからアバターへ渡す道が、まだ通っていません。そしてベースステーションについては、公式が何も言っていません。
すでにベースステーションとトラッカーを部屋に置いてある人にとっては、その資産をどう扱うかが判断の分かれ目になりそうです。PCから配信して使う形なら【推測】併用の道が残りますが、座標を合わせる手間が乗ります。逆に、まだ何も持っていない人にとっては、本体のためにベースステーションを買わずに済むという点が意味を持ってきます。
いま何を買えばいいのかという話は、機材の側から【2026年版】フルトラ・フェイトラ最前線〜VRの身体トラッキングはここまで来たにまとめてあります。
今回の調査で分かっていないこと
未発売の機械を扱っているので、分からないことのほうが多く残りました。書き出しておきます。
- Steam Frame の発売日。公式ページに日付は無く、あるのは発表当時の「early 2026」という文面だけ
- 価格と日本での価格、予約の開始日。取扱窓口が KOMODO であることは公式に書かれているが、金額は出ていない
- Valve が「Index より安い」と述べたとされる話。複数の媒体が伝えているが、一次で裏を取れていない
- ベースステーションが使えるかどうか。公式ページに記載が無く、判断できない
- ベースステーション方式のトラッカーを、PCから配信する形で併用したときの実際の具合
- VIVE Ultimate Tracker が Steam Frame で使えるかどうか
- Steam Frame が平面や奥行きを把握できるかどうか。公式に記載が無い
- カメラによる素手の追跡の対応。同じく公式仕様に記載が無い
- Steam Frame の視線を OSC へ中継するプログラムの有無。見当たらないが、無いとは書けない
- 拡張ポートに付ける顔追跡の装置。発表が見つからない
- SlimeVR や Baballonia の ARM64 向けの配布物が、Steam Frame で実際に動くかどうか。配布物が在ることは確かめたが、動いたという報告は見つからない
- SlimeVR のファームウェア書き込み道具が Linux で動くかどうか。公式ドキュメントに記載を見つけられなかった
- カメラ式のフルトラを Linux で動かしたときの実際。作者自身が「試せていない」と書いている
- Bigscreen Beyond 2 / 2e に外向きカメラが無いこと。仕様表に記載が無いだけで、「無い」と書かれてはいない
- Quest 2 の視野角と、Valve Index の視野角。どちらもメーカーが公表しておらず、第三者の数字が割れている
- Valve Index と Quest 各機の重さ。同じくメーカー非公表
- Valve Index の販売終了日。2025年11月12日とされるが、一次で確認できていない
- Quest 2 の現在の中古価格、Quest 3 の 512GB 以外の現行価格
- 実機で測らないと分からないこと全般。視野角の体感、遅延、解像感、着け心地。当方は実機を持っていない
まとめ〜捨てたもの、取ったもの
4つの軸で並べた結果を畳みます。視線追跡はハードが載っていて、Valve は開発者向けの文書で XR_EXT_eye_gaze_interaction という共通の窓口を使うと明記しています。ただしその窓口が渡すのは両目を合成した1本の視線だけで、まばたきも左右別の目線も含まれません。顔を追う機構は積んでおらず、足すなら前面の拡張ポートか、外付けのカメラという道が残ります。全身追跡は、ベースステーションについて公式が何も書いていないため判断できず、単体なら体に付ける方式、PCから配信するなら PC側の SteamVR がトラッカーを扱う形が【推測】として残りました。そこへ「その機器のソフトが Linux で動くか」という壁が重なります。ただし「ARM だから動かない」と一律には言えませんでした。SlimeVR と Baballonia には ARM64 向けの配布物があり、【推測】理屈の上では Steam Frame 単体でも動く見込みが立ちます。実際に動いたという報告は、まだ見当たりません【未確認】。パススルーはモノクロと公式が明記しており、色を使う使い方には向きません。
調べていて何度も手が止まったのは、公式が書いている一文と、その一文で本当にできることの距離でした。「視線追跡に対応」と書いてあっても、渡されるデータの形まで見ないと、アバターの目が動くのかどうかは分かりません。手元のパソコンでAIを動かすときにも同じ形の落とし穴があって、対応と書かれた機能が、自分の使い方では働かないという場面によく出くわします。仕様表の一行を、自分の用途まで下ろして読む作業は、どちらの世界でも変わらないのではないでしょうか。
なお、手元のパソコンでどこまで大きいモデルが動くのかを調べた記事はこちらです。
記事で紹介した機材
本記事で取り上げた機材のうち、いま国内で買えるものを並べておきます。Steam Frame は未発売のため含めていません。
[kimono_kw name="Meta Quest 3″ kw="Meta Quest 3″]
[kimono_kw name="Meta Quest 3S" kw="Meta Quest 3S"]
[kimono_kw name="VIVE Ultimate Tracker" kw="VIVE Ultimate Tracker"]
本文で触れた SlimeVR と HaritoraX 2 は、通販サイトの検索では別の商品ばかりが並んでしまうため、ここには並べていません。実際に検索してみると、SlimeVR では紛失防止タグが、HaritoraX では別社のトラッカーや無関係の商品が上位に出てきます。どちらも公式の販売ページから買う形になります(SlimeVR 公式 / HaritoraX 2 公式)。
参考にしたサイト
- Steam Frame(Valve 公式・仕様表)
- Steam Frame – Custom Engines(Steamworks・視線追跡の拡張名)
- Steam Frame – Godot(Steamworks・視線追跡の有効化)
- OpenXR 仕様(XR_EXT_eye_gaze_interaction)
- VRChat 公式ドキュメント – OSC Eye Tracking
- VRChat 公式ドキュメント – OSC Trackers
- VRCFaceTracking – Linux 対応の要望(2026年8月13日に完了として終了)
- VRCFaceTracking(Steam・動作環境)
- Project Babble / Baballonia
- SlimeVR 公式
- SlimeVR – Linux での導入手順
- SlimeVR Server のリリース一覧
- HaritoraX 2(Shiftall 公式・動作環境)
- SlimeTora(HaritoraX を SlimeVR へ繋ぐ・有志)
- VIVE Ultimate Tracker(HTC 公式)
- Tundra Tracker ユーザーマニュアル
- PICO Connect(PICO 公式・動作環境)
- Mediapipe-VR-Fullbody-Tracking(カメラ式・有志)
- Linux VR Adventures Wiki – SlimeVR
- Linux VR Adventures Wiki – WiVRn
- Linux VR Adventures Wiki – ペアリング
- OpenVR Space Calibrator
- Meta Quest 比較ページ(解像度・視野角・価格)
- Meta 開発者向け – Body Tracking
- Bigscreen Beyond 2 / 2e(直販ページ)
- Valve Index ヘッドセット(Valve 公式)
- Meta 公式ヘルプ – PC接続の動作環境
- SteamVR for Linux(Valve 公式リポジトリ)
- WiVRn(対応機種表)