Pixel 11でローカルLLMは動くのだろうか〜発売直後に調べて分かったこと
スマートフォンの中でAIを動かす、という話をよく見かけるようになりました。パソコンに大きなGPUを積まなくても、手元の端末だけで文章を書かせたり要約させたりできる、というものです。
2026年8月20日に、Googleの新しいスマートフォンが発売されました。Pixel 11です。「端末の中のAI処理が最大3.5倍速くなった」と説明されています。
3.5倍と聞くと、期待したくなります。手持ちのモデルを持ち込めば、その分だけ速く動くのでしょうか。
この記事で調べたこと
自分で用意したモデルを Pixel 11 に載せたとき、実際に速くなるのか。そして、どのくらいの大きさまで載るのか。
ここでいう「自分で用意したモデル」とは、GGUF(ジーガフ)という形式で配られているファイルのことです。llama.cpp(ラマシーピーピー)という道具で動かします。スマートフォンでは Termux(タームックス)というアプリの中で使うのが一般的です。
Googleが端末に最初から入れているAI(Gemini Nano)とは別物です。この違いが、今回いちばん大事な点でした。
調べ方
当サイトは Pixel 11 を持っていません。そのため、次のものを読んで突き合わせました。
- Googleの発表と、報道各社が伝えた仕様
- 第三者による測定(Geekbench・3DMark)
- ARM社の公式資料(llama.cppの高速化について)
- 端末別の速度をまとめた比較記事
手元で測った数値は1つもありません。そこは正直に書きます。
Pixel 10 から Pixel 11 で、何が変わったのか
搭載されている頭脳(SoC)が Tensor G5 から Tensor G6 に変わりました。
| Pixel 10(G5) | Pixel 11(G6) | |
|---|---|---|
| 製造 | — | 2nm |
| CPU | 8コア(Cortex-X4 ほか) | 7コア(ARM C1シリーズ) |
| GPU | PowerVR DXT-48-1536 | PowerVR CXTP-48-1536 |
| TPU | — | 演算 50%増(Google公称) |
| RAM | Pro/Pro XLは容量に関係なく16GB | 256GBモデルは12GB |
第三者の測定では、CPUは シングルで約18%、マルチで約21% 速くなったと報告されています。コアを1つ減らしたうえでの伸びです。
3.1 GPUは、世代が前に戻っています
見落とされがちですが、GPUの型番に注目すると妙なことが起きています。
Pixel 10 の DXT に対し、Pixel 11 は CXTP です。C系列はD系列より前の世代で、この部品自体は2021年に発表されたものだと報じられています。
測定でも、ピーク性能は7〜10%増に留まり、数分のストレステストでは前世代のGPUを下回ったと報告されています。
ゲーム目的で見れば、後退です。ただし、ローカルLLMの話としては、ここはもともと期待していない部分でした。理由は後で書きます。
「AIが3.5倍速い」は、誰の話なのか
ここが今回の核心でした。
3.5倍という数字は、Gemini Nano をTPUで動かしたときの話です。TPUは、Googleが自社のAI処理のために積んでいる専用の回路です。
そして、端末別の比較記事には、こう書かれていました。
Tensorはサードパーティアプリに NPU を公開しない
同記事では6つのアプリで測定していますが、Pixelでは全部がCPU実行になっていました。
つまり、自分で持ち込んだモデルは、TPUに触れません。3.5倍という数字は、そのまま当てはめられません。
4.1 経路が3つあり、混同すると話が合わなくなる
TPU 使えない / GPU 期待薄 / CPUで動く
Gemma 3n E2B(2GB)/ E4B(3GB)
TPU を使える / ただし変換の手間がかかる
では、Aの道に追い風はないのか
ありました。GPUでもTPUでもなく、CPUの中です。
Tensor G6 が採用した ARM C1 シリーズには、SME2 という機能が入っています。行列の掛け算を速くするための命令です。
LLMの処理は、その大半が行列の掛け算です。ここが速くなれば、推論そのものが速くなります。
前世代の Tensor G5 は Cortex-X4 という2023年の設計を使っており、この機能はありませんでした(当サイトの推定です。Googleは明示していません)。
5.1 llama.cpp が、そのまま使えます
ARM社の公式資料に、こう書かれています。
CPUにSME2があれば、KleidiAI が llama.cpp 内部の汎用実装を置き換える
同資料には、SME2 を有効にした場合としない場合の測定も載っています。
| Llama-3.2-3B・Q4_0 | 読ませる速さ | 書く速さ |
|---|---|---|
| SME2 あり | 12.3 tok/s | 9.1 tok/s |
| SME2 なし | 7.9 tok/s | 5.9 tok/s |
| +56% | +54% |
ただし、この測定に使われた端末は公開されていません。Pixel 11 の数値ではない、という点は押さえておく必要があります。
ここに落とし穴があります
SME2の恩恵を受けられるのは、Q4_0 と Q8_0 という形式だけです。
配布されているGGUFで最も見かけるのは Q4_K_M という形式です。品質と大きさの釣り合いが良いため、多くの人がこれを選びます。
ところが、K系列やIQ系列の形式では、何も言わずに従来の処理に切り替わります。エラーも警告も出ません。
良かれと思って Q4_K_M を選ぶと、Pixel 11 の新しい機能が働かないまま使い続けてしまいます。しかも、気づく手がかりがありません。
Q4_0 を選ぶ、というだけの話ではありますが、知らなければ選べません。
どのくらいの速さになりそうか
Pixel 11 で実際に動かした報告は、調べた範囲では見つかりませんでした。発売から4日ですので、まだ誰も出していないようです。
そこで、既存の測定から見当をつけます。
土台にした数値
- Pixel 9 Pro で Phi-4 Mini(3.8B)Q4_K_M をCPUで動かした場合 … 10〜18 tok/s
- SME2 の有無による差(ARM測定) … 約1.54倍
- Tensor G5 から G6 へのCPU向上(Geekbench 6) … 約1.2倍
掛け合わせると
10〜18 tok/s × 1.35(世代分) × 1.54(SME2分) = 約21〜37 tok/s
ただし、もう一つの土台と食い違います。ARM の測定では3Bで 9.1 tok/s でした。Pixel 9 Pro の3.8Bのほうが速い、という逆転が起きています。
測定端末が公開されていないため、理由は分かりません。両方を採ると、3〜4B級で「おおよそ 10〜35 tok/s」という幅が残ります。
倍以上の幅です。これ以上は、実際に測らないと詰められません。
どのくらいの大きさまで載るのか
速さよりも、RAMのほうが厳しく効きます。
| モデルの大きさ | Q4_0でのファイル | 12GB機 | 16GB機 |
|---|---|---|---|
| 1B | 約0.8GB | 余裕 | 余裕 |
| 3B | 約1.9GB | 余裕 | 余裕 |
| 4B | 約2.5GB | 入る | 入る |
| 8B | 約4.7GB | ぎりぎり | 入る |
| 12B | 約7.0GB | 入らない | 厳しい |
Androidは本体とアプリでRAMを使うため、12GBの端末で自由に使えるのは6〜7GB程度です。複数の記事が「7Bあたりが上限、3B以下なら安定」という見方で一致していました。
文章のやり取りが長くなると、モデル本体とは別に記憶領域を食います。表の数字は、短いやり取りを前提としたものです。
8.1 買うなら、どの構成か
ここで、Pixel 11 の構成が効いてきます。
| 256GB | 512GB | 1TB | |
|---|---|---|---|
| Pixel 11 | 12GB | 12GB | — |
| Pixel 11 Pro | 12GB | 16GB | 16GB |
| Pixel 11 Pro XL | 12GB | 16GB | 16GB |
| Pixel 11 Pro Fold | 16GB | 16GB | 16GB |
Pixel 10 の Pro と Pro XL は、容量に関係なく16GBでした。256GBモデルは 16GB から 12GB へ下がりました。しかも Pro XL の最も安い構成は前年より100ドル高い、と報じられています。
前の世代と並べると、こうなります。
| RAM | SME2 | 載せられる大きさ | |
|---|---|---|---|
| Pixel 10 Pro(256GB) | 16GB | 無し | 8B級まで届く |
| Pixel 11(256GB) | 12GB | あり | 3〜4B級が安全圏 |
| Pixel 11(512GB以上) | 16GB | あり | 8B級まで届く |
新しいほうが必ず有利、という並びではありません。Pixel 11 の安い構成は、載せられる量では前の世代の下に来ます。速さでは SME2 のぶん上に来るはずですが、そもそも載らなければ動きません。
ローカルLLMを目的にするなら、512GB以上を選ぶ理由はストレージではありません。RAMが16GBになるからです。
確かめていないこと
- 当サイトは Pixel 11 も Pixel 10 も持っていません。すべて調査に基づく内容です
- TPUの「50%増」「3.5倍」は Google の公称で、第三者による測定は見つかりませんでした
- ARM の測定に使われた端末が公開されていないため、絶対値の当てはめができません
- PowerVR のGPUで llama.cpp のGPU処理が動くかは不明です。Vulkan の対応が古いという指摘もあります
- Tensor G5 に SME2 が無いことは、採用コアの世代からの推定です
- LiteRTでモデルを変換する手間と、変換後の速さは調べていません
まとめ
「AIが3.5倍速い」は、自分で持ち込んだモデルの話ではありませんでした。Googleのモデルを、Googleの経路で動かしたときの数字です。
それでも、追い風はありました。Pixel 11 のCPUに入った SME2 という機能は、llama.cpp が自動で使います。ARM の測定では、有無で 1.5倍前後の差が出ています。
ただし条件があります。Q4_0 か Q8_0 の形式でなければ働きません。よく使われる Q4_K_M では、何も言わずに従来の処理に戻ります。
大きさの上限は、RAMで決まります。12GBの端末なら3〜4B級が安全で、8Bは綱渡り。16GBあれば8Bも視野に入ります。
そして、Pixel 11 で実際に動かした報告は、まだ見当たりません。
GPUの世代が戻り、RAMが減り、値段は上がった——スマートフォンとしての評価は厳しいものが多いようです。ただ、手元でモデルを動かす道具として見ると、評価が一致しません。下がった部分と上がった部分が、別の場所にあるためです。
—



ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません