CPUグリスの塗り直しでどれだけ温度が下がる?〜効果と手順を調べてみた
CPUグリスの塗り直しでどれだけ温度が下がるのか、気になって調べてみました。
自宅のUbuntu PCにRTX 3090とRTX 3060を差して、OllamaやComfyUIでローカルAIを日常的に回しています。組んでから年数も経ち、CPU温度が以前より高めに感じることが増えてきました。CPUクーラーのファンは正常に回っている、埃も掃除した、となると次に疑うべき定番がCPUグリスの劣化です。そこで、塗り直しでどれだけ効果があるのかを調べることにしました。
調べたところ、グリスの塗り直しでCPU温度が下がったというユーザー報告は多く、5〜15℃下がった例が目立ちます。作業時間は15分程度、費用はグリス代800〜1,500円ほどから。静音性の改善を報告する声も多く見られます。
結論としては、費用1,000〜2,500円・作業15分程度でCPU温度が7〜12℃下がったという報告が多い、コストパフォーマンスに優れたPCメンテナンスです。
グリス塗り直し前 CPU温度(報告例)
※ユーザー報告の一例。Thermal Grizzly Kryonaut使用・室温25℃の条件
グリス塗り直し後 CPU温度(報告例)
改善幅: アイドル−7℃、軽負荷−8℃、LLM推論−9℃、ストレス−12℃(同報告例より)
高負荷ほど改善幅が大きい理由: フーリエの法則 Q = k × A × ΔT / d において、高負荷時は伝えるべき熱量Qが大きくなるため、グリス劣化による熱抵抗の増加が温度差の拡大としてより顕著に現れます。
本記事では、グリスの役割と劣化のメカニズム、グリスの選び方、塗り直しの手順、報告されている温度改善の例をまとめます。
※価格・製品情報は2026年4月時点の調査内容です。
なぜグリスの塗り直しが必要なのか
そもそもグリスは何をしているのか:フーリエの法則
- Q(W): 伝わる熱量。大きいほど冷える
- k(W/mK): 熱伝導率。グリスのスペック表に書いてある数値
- A(m²): 接触面積。CPUとクーラーが実際に密着している面の広さ
- ΔT(K): 温度差。CPUが熱くてクーラーが冷たいほど大きい
- d(m): グリスの厚み。薄いほど熱が伝わりやすい
グリスの仕事は、kを高く、dを薄く、Aを大きくすること。CPUとクーラーの表面には肉眼では見えない微細な凹凸(数μm〜数十μm)があり、何も塗らないと実際に接触しているのは見かけ面積の数%。残りは空気(熱伝導率0.026 W/mK)が埋めています。市販の高性能グリスの熱伝導率は8〜14 W/mK程度で空気の300〜500倍。凹凸を埋めて実質接触面積を100%に近づけるのがグリスの仕事です。
経年劣化のメカニズム:ポンプアウト現象
グリスが2〜3年で乾燥・硬化する最大の原因はポンプアウト現象です。CPUは高負荷時に発熱して膨張し、冷えると収縮します。この熱サイクルのたびにCPUとクーラーの隙間がわずかに変動し、ポンプのようにグリスを外側に押し出してしまいます。さらにシリコーンオイルなどの揮発成分が高温で蒸発し、残った充填剤がカサカサの粉状になります。こうなるとフーリエの法則のkが激減します。
CPUグリスは、CPUとクーラーの間にある微細な隙間を埋めて、熱を効率よく伝えるための素材です。これがないと、いくら良いクーラーを付けていても性能を発揮できません。
経年劣化する
グリスは2〜3年で乾燥・硬化します。新品のときはペースト状で密着していたものが、熱サイクル(加熱と冷却の繰り返し)によって徐々にカサカサになります。
特にAI処理やゲームなどで長時間高負荷をかけている環境では、劣化が早まりやすいです。
最初から塗りが甘いケースもある
BTOパソコンや、自作PCでも初回の塗り方が雑だと、そもそも最初から熱伝導が不十分な場合があります。「買ったときからなんだか温度が高い気がする」と感じたら、一度確認してみる価値はあります。
おすすめグリス比較(5製品)
| グリス名 | 実売価格(税込・2026年4月時点) | 容量 | 熱伝導率(W/mK) | 粘度 | 推定寿命 | 塗りやすさ | おすすめ度 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Arctic MX-4 | 約800円 | 4g | 8.5 | 中程度 | 約8年(公称) | ★★★★★ | ★★★★☆ |
| Noctua NT-H1 | 約1,000円 | 3.5g | 8.9(参考値) | やや柔らかめ | 約3〜5年 | ★★★★★ | ★★★★☆ |
| Thermal Grizzly Hydronaut | 約1,200円 | 1g | 11.8 | やや硬め | 約3〜4年 | ★★★☆☆ | ★★★★☆ |
| Thermal Grizzly Kryonaut | 約1,500円 | 1g | 12.5 | やや硬め | 約2〜3年 | ★★★☆☆ | ★★★★★ |
| Thermalright TFX | 約2,000円 | 2g | 14.3 | 硬め | 約5〜7年 | ★★☆☆☆ | ★★★★☆ |
この表の読み方:
- 熱伝導率(W/mK) が高いほど理論上の放熱性能は高いです。なお、Noctua NT-H1はメーカーが熱伝導率を公表していないため、表の数値はレビュー等で引用される参考値です。レビューでの比較検証を見る限り、実際の温度差は製品間で1〜3℃程度にとどまることが多いようです。
- 粘度 は塗りやすさに直結します。柔らかいものは伸ばしやすく初心者向け、硬いものは薄く均一に塗れる反面、慣れが必要です。
- 推定寿命 はメーカー公称値・ユーザーレビューの平均値です。使用環境(温度・負荷頻度)で変わります。
- 塗りやすさ は★5が最も簡単。初めてなら★4以上を選ぶと失敗しにくいです。
レビューでの評価を総合すると、初めて塗り直しをするならNoctua NT-H1(3.5g)が扱いやすそうです。塗りやすさの評価が高く、粘度がちょうどよく伸ばしやすいとされています。コスパで選ぶならArctic MX-4(4g)が約800円で量も多く有力です。定番はThermal Grizzly Kryonaut(1g)で、12.5 W/mKの高性能。性能と寿命を両立させたいならThermalright TFX(2g)が14.3 W/mKの高い熱伝導率に加えて推定寿命5〜7年と長寿命です。自分が実際に塗り直すときは、初回ということもあり、扱いやすさ重視でNT-H1かMX-4から試すつもりです。
なお、Thermal Grizzly Hydronaut(1g・約1,200円)はKryonautより粘度が高く垂れにくいため、縦置きケースや高温環境で安定させたい方に向くとされています。
[棒グラフデータ] 熱伝導率 & 価格比較
[棒グラフデータ] CPUグリス 熱伝導率 & 価格比較 グラフ種類: 棒グラフ(2軸) X軸: 製品名 / Y軸(左): 熱伝導率(W/mK) / Y軸(右): 価格(円) 製品名 熱伝導率(W/mK) 価格(円) Arctic MX-4 8.5 800 Noctua NT-H1 8.9 1000 TG Hydronaut 11.8 1200 TG Kryonaut 12.5 1500 Thermalright TFX 14.3 2000 棒の色: 熱伝導率=青系, 価格=オレンジ系
グラフの読み方:
- 青い棒(左軸) が熱伝導率です。右にいくほど高性能・高価格になる傾向がわかります。
- オレンジの棒(右軸) が価格です。MX-4(800円)からTFX(2,000円)まで2.5倍の価格差がありますが、熱伝導率は8.5→14.3と約1.7倍の差です。
- コスパの目安: 1円あたりの熱伝導率で比較すると、MX-4(0.0106 W/mK/円)が最もコスパが良く、次いでHydronaut(0.0098)、NT-H1(0.0089)の順です。
- 比較レビューでの温度差は製品間で1〜3℃程度とされるので、「安くて塗りやすいMX-4やNT-H1で十分」というのが現実的な結論のようです。
塗り直しに必要なもの & 費用内訳
| 必要なもの | 製品名・詳細 | 目安の費用(2026年4月時点) | 用途・備考 |
|---|---|---|---|
| CPUグリス | 上の比較表から選択 | 800〜2,000円 | 1本で5〜10回分ある |
| 無水エタノール | 無水エタノール(500ml) | 約1,200円 | 古いグリスの除去用。薬局でも購入可能 |
| IPAクリーナー(代替) | IPA配合のOAクリーナーなど | 約1,000円 | IPA(イソプロピルアルコール)配合。古いグリス除去に使える。無水エタノールの代替として |
| 拭き取り用ペーパー | キムワイプ S-200 | 約300円 | 繊維が残らない。キッチンペーパーより確実 |
| ヘラ(任意) | アイネックス グリス塗布用ヘラ | 約300円 | なくてもいいが均一に塗れる。中央盛り派は不要 |
| 精密ドライバー(未所持なら) | 精密ドライバーセット(CPUクーラー外し用) | 約1,500円 | CPUクーラーのネジ外しに必要。すでに持っていればOK |
費用パターン別まとめ(2026年4月時点)
| パターン | 内容 | 合計(2026年4月時点) |
|---|---|---|
| 最小構成 | Arctic MX-4(約800円)+ キムワイプ S-200(約300円) | 約1,100円 |
| おすすめ構成 | Noctua NT-H1(約1,000円)+ 無水エタノール(約1,200円)+ キムワイプ S-200(約300円) | 約2,500円 |
| 高性能構成 | Thermalright TFX(約2,000円)+ 無水エタノール(約1,200円)+ キムワイプ S-200(約300円)+ アイネックス ヘラ(約300円) | 約3,800円 |
最小構成は「とにかく安くグリスを塗り直したい」人向けです。MX-4とキムワイプだけで約1,100円。古いグリスが乾燥して取りにくい場合は、無水エタノールかサンワサプライのOAクリーナーを追加してください。
おすすめ構成は、初めての方に最もバランスが良い組み合わせです。NT-H1の塗りやすさと、無水エタノール+キムワイプの確実なクリーニングで失敗しにくいとされています。
拭き取りにはキムワイプ S-200(約300円)が定番です。ティッシュやキッチンペーパーは繊維がCPU表面に残ることがありますが、キムワイプなら繊維残りの心配がありません。
塗り方のコツ
ここからは、各メーカーの公式手順や定番とされるやり方をもとに、一般的な塗り直しの手順をまとめます。
1. 古いグリスを除去する
CPUクーラーを外したら、CPU表面とクーラー側のヒートシンクに付着している古いグリスを、無水エタノールを含ませたキムワイプで拭き取ります。乾燥して固まっている場合は、エタノールを少し多めに使ってふやかしてから拭くとキレイに取れます。
2. 米粒大を中央にのせる
新しいグリスを米粒1つ分、CPUの中央に出します。これだけで十分です。
3. クーラーをまっすぐ押し広げる
グリスの上からCPUクーラーをまっすぐ下ろして、均等に圧着します。ヘラで塗り広げる方法もありますが、中央盛りしてクーラーの圧力で広げるのが最もムラになりにくい方法とされています。
塗りすぎ注意
報告されている温度改善の例
塗り直し前後の温度変化として報告されている一例です(報告条件: 室温25℃、Thermal Grizzly Kryonaut使用)。レビューやユーザー報告を見ると、改善幅は5〜15℃の範囲に収まる例が多いようです。
| CPU状態 | 塗り直し前 | 塗り直し後 | 差分 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| アイドル時 | 45℃ | 38℃ | −7℃ | デスクトップ放置 |
| 軽負荷(ブラウジング) | 55℃ | 47℃ | −8℃ | Chrome 20タブ程度 |
| 高負荷(LLM推論) | 82℃ | 73℃ | −9℃ | LLM推論を連続30分実行 |
| ストレステスト(Cinebench R23) | 88℃ | 76℃ | −12℃ | マルチコア全力10分 |
[棒グラフデータ] Before / After 温度比較(報告例)
[棒グラフデータ] グリス塗り直し前後のCPU温度比較(報告例) グラフ種類: 棒グラフ(グループ化) X軸: CPU状態 / Y軸: CPU温度(℃) CPU状態 塗り直し前(℃) 塗り直し後(℃) アイドル 45 38 軽負荷 55 47 LLM推論 82 73 ストレステスト 88 76 棒の色: 塗り直し前=赤系, 塗り直し後=青系 基準線: 90℃(サーマルスロットリング開始の目安)を赤点線で表示
グラフの読み方:
- 赤い棒 が塗り直し前、青い棒 が塗り直し後のCPU温度です。この報告例では、全ての状態で明確に温度が下がっています。
- 差分が大きいのは高負荷時です。 アイドル時の−7℃に対し、ストレステスト時は−12℃と、負荷が高いほど改善幅が大きくなっています。これはグリスの劣化による熱抵抗が、発熱量の多い場面でより顕著に影響するためです。
- 赤い点線(90℃) はサーマルスロットリングの目安ラインです。塗り直し前のストレステスト(88℃)はこのラインに近く、これ以上劣化するとCPUが自動的にクロックを下げて性能低下が発生します。
温度が下がるとCPUクーラーのファン回転数も抑えられるため、「動作音が静かになった」という報告も多く見られます。高負荷時にファンがうるさい場合、グリスの塗り直しだけで改善する可能性があります。
いつ塗り直すべきか:判断チェックリスト
基本的には2〜3年に1回が目安とされますが、以下のチェックリストで「今すぐ必要か」を判断できます。
温度ベースの判断基準
| チェック項目 | 具体的な閾値 | 緊急度 |
|---|---|---|
| アイドル温度が購入時/前回塗替え時より5℃以上上昇 | 例: 35℃→40℃以上 | ★★☆(近いうちに塗り直し推奨) |
| アイドル温度が50℃以上(室温25℃前提) | 50℃超 | ★★★(早めに対応) |
| 高負荷時に85℃以上に達する | 85℃超 | ★★★(早めに対応) |
| 高負荷時に90℃以上に達する | 90℃超 | ★★★★★(即座に対応。スロットリング発生中) |
| 95℃以上を記録した | 95℃超 | ★★★★★(即停止&対応。CPU寿命に影響) |
状況ベースの判断基準
- CPUクーラーのファンが以前より明らかにうるさくなった(回転数が上がっている)
- ケースや部屋の温度は変わっていないのにCPU温度が上がった
- BTOパソコンを買ってから2年以上グリスを替えていない
- 自作PCを組んでから3年以上経過している
- 毎日AI処理・ゲーム等で長時間高負荷をかけている(劣化が早い)
- CPUクーラーを一度外して付け直した(再装着時はグリス塗り直し必須)
上記のいずれか1つでも当てはまる場合は、塗り直しを検討してください。温度ベースで★★★以上の項目に該当する場合は、早めの対応が推奨されています。
自分のように毎日AI処理で長時間高負荷をかけている場合は、2年を待たずに塗り直しを検討したほうがよさそうです。費用も手間も大きくないので、「気になったら検討する」くらいの気持ちで十分でしょう。
まとめ
CPUグリスの塗り直しは、費用1,100〜3,800円(2026年4月時点)、作業時間15分程度で、CPU温度が7〜12℃下がったという報告が多い、コストパフォーマンスに優れたメンテナンスです。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 費用 | 1,100〜3,800円(2026年4月時点) |
| 作業時間 | 約15分 |
| 温度改善幅(報告例) | −7℃(アイドル)〜 −12℃(ストレステスト) |
| 推奨頻度 | 2〜3年に1回(高負荷環境では1.5〜2年) |
特にBTOパソコンを買ってから一度もグリスを塗り直していない方、自作PCを組んでから2年以上経っている方は、検討してみる価値がありそうです。
グリス選びに迷ったら、まずは約1,000円で塗りやすさの評価が高いNoctua NT-H1あたりから検討してみてください。










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