Intel Arc B580でできたこと・できなかったこと〜Intel Arc B580ローカルLLM 第7話
以前から使っている NVIDIA GeForce RTX 3090 の隣に、12GB の GPUボード Intel Arc B580 を挿してから、ひと月ほど測り続けてきました。最初は速度がまるで出ず、その原因を探すところから始まりました。PCIe の表示に驚き、モデルの大きさや文脈の長さで速度がどう変わるかを追い、最後は外付けでも使えるのかを試した、という流れです。
本記事では、5回にわたって測ってきた内容を、できたこと・できなかったこと・その理由に分けて振り返ります。連載の最終回にあたります。
2026年7月時点の内容です。
使用した機器の概要
測定に使ったデスクトップPCは、下記のとおりです。このPCに Intel Arc B580 を追加しました。
| CPU | Ryzen 9 3950X |
| マザーボード | X570 |
| メモリー | 64GB |
| GPU | RTX 3090、Intel Arc B580(今回追加) |
| OS | Ubuntu |
玄人志向 Intel Arc B580 搭載 グラフィックボード GDDR6 12GB AR-B580D6-E12GB/DF

ファンが2つついた、とてもシンプルな見た目のGPUボードです。この1枚で、どこまでローカルLLM(LLM: 大規模言語モデル。文章を生成するAIの本体)を動かせるのかを追いかけました。
できたこと
ドライバを1世代上げたら3.3倍になった
最初に測ったときの decode 速度(文章を生成する速さ)は 28.52 tok/s で、手元の RTX 3060 の 90.6 tok/s に遠く及びませんでした。原因は Linux のグラフィックドライバ「Mesa」が1世代古かったことでした。更新後は 94.69 tok/s まで上がり、倍率にして 3.32倍です。設定は何も変えていません。
詳細は 第1話(Mesa更新で3.3倍になった話)に書きました。
12GBに収まるモデルなら、RTX 3060 より速い位置にいる
ドライバ更新後に測り直すと、同じモデルで RTX 3060(CUDA)の 90.6 tok/s に対し、B580 は 94.69 tok/s でした。小さいモデルでは prefill(プロンプトの読み込み)が 2380 tok/s まで出ており、待たされる感覚はほとんどありません。
| モデル | サイズ | decode | prefill |
|---|---|---|---|
| phi4-mini | 2.4GB | 79.81 tok/s | 2380 tok/s |
| nemotron-3-nano:4b | 2.4GB | 95.52 tok/s | 1650.8 tok/s |
| qwen3:8b | 4.5GB | 60.08 tok/s | 1192.9 tok/s |
| Ornith-1.0-9B | 4.7GB | 48.03 tok/s | 1163.4 tok/s |
| gemma4-12b | 6.9GB | 29.95 tok/s | 396.9 tok/s |
この表の数字には条件があります。同じプロンプトを繰り返して測った値です。同じ問いを続けて投げると、読み込み済みの部分が再利用されるため、prefill は速く出ます。
毎回ちがう文章を読ませる使い方では、この速さは出ません。長い文書を要約させる、コードを読ませる、といった用途では入力を毎回読み直すことになり、最初の返事が来るまでの時間は表の値より伸びます。当窓の別の機体では、入力を3万トークン級にすると最初の一文字まで30秒を超える例が出ています(2026年8月時点・別記事で扱います)。
サイズ別の速度と消費電力は 第3話(12GBに収まるモデルの速度と消費電力)にまとめてあります。
CUDA がなくても動いた
Intel の GPU には CUDA(NVIDIA製GPU向けの高速計算基盤)がありません。今回は Vulkan という規格を通して動かしました。同じ RTX 3090 で比べると CUDA の 181.41 tok/s に対し Vulkan は 167.57 tok/s で、差は 7.6% にとどまります。Vulkan だから極端に遅い、ということはないようです。
「Gen1 x1」の表示は見かけだけだった
接続を確認するコマンドで PCIe 1.0 x1 と表示され、故障を疑いました。Intel の公式サポート文書には、Arc シリーズは標準ツールでは常にこの表示になると明記されています。実際には PCIe 4.0 x4 で動いており、転送速度の実測でも裏が取れました。
この件は 第2話(「Gen1 x1」でしかつながらない?)で詳しく追っています。
できなかったこと
長い文脈を持たせると急に遅くなる
モデル本体が 12GB に収まっていても、扱う文脈(会話や文書の長さ)を伸ばすと速度が落ちました。qwen3:14b では、文脈 2048 で 36.11 tok/s だったものが、32768 では 9.00 tok/s まで下がりました。文脈を保持する KVキャッシュ が VRAM に収まりきらず、CPU側へあふれたためです。
| 文脈長 | qwen3:14b | gemma4-12b |
|---|---|---|
| 2048 | 36.11 tok/s | 30.54 tok/s |
| 8192 | 28.64 tok/s | 30.51 tok/s |
| 16384 | 13.83 tok/s | 30.50 tok/s |
| 32768 | 9.00 tok/s | 30.57 tok/s |
同じ 12GB でも gemma4-12b はどの文脈長でも 30 tok/s 前後で一定でした。モデルによって KVキャッシュ の食い方が違う点が、この連載でいちばん意外だった箇所です。経緯は 第4話(12GBに収まったのに遅い)に残しました。
ただしこれは容量が足りないというより、KVキャッシュ の持ち方の問題にあたります。KVキャッシュ を圧縮して持つ設定や、モデル側の改良で改善する余地があると考えられます。今の時点で頭打ちと決まったわけではなさそうです。
12GBを超えるモデルは載せられない
VRAM 12GB という容量そのものは動かせません。30B級のモデルを載せようとすると大半が CPU 側へ落ち、速度は実用から外れました。24GB の RTX 3090 と比べると、扱えるモデルの幅でははっきり差がつきます。
Thunderbolt 経由の外付けでは動かせなかった
ミニPC に外付けして使えないかも試しました。ドック経由の Thunderbolt 接続では、GPU の初期化が最後の段階で失敗し、計算までたどり着けませんでした。同じドックでも OCuLink という別の接続方式に変えると動いたため、分かれ目は GPU の世代ではなく接続方式だったと考えられます。
止まった場所は、いずれもドライバやカーネルが現在も手を入れている領域でした。仕様として無理だと確定した箇所ではないため、更新が進めば動くようになる可能性は残っていそうです。実際、この連載の第1話が「ドライバを新しくしたら解決した」という話でした。
3世代のGPUで止まる場所がそれぞれ違った記録は 第5話(外付けGPUがThunderboltで動かない?)にあります。
まだ試せていないこと
B580 と RTX 3090 を同時に使い、1つのモデルを2枚のGPUに分けて載せる構成は、まだ確認できていません。GPUメーカーが異なるため CUDA では組めず、Vulkan で層を分割する形を試すことにしました。準備の段階で必要なファイルが揃わず止まっているため、進展があれば別途記録します。
できなかった理由
今回つまずいた箇所を並べると、原因は大きく4つに分かれるようです。あわせて、それが今後の更新で変わりうるものか、ハードウェアの容量として動かせないものかを分けて整理しました。
| できなかったこと | 理由 | 今後の見込み |
|---|---|---|
| 最初に速度が出なかった | ソフトウェア側の対応が後追いだった(B580 は 2024年末の製品で、最適化が Mesa に入るのが遅れていた) | 更新で解決済み。今後もドライバの改良で伸びる余地がある |
| 長い文脈で遅くなる | KVキャッシュ が VRAM に収まらず CPU 側へあふれる | KVキャッシュ を圧縮する設定やモデル側の改良で改善しうる |
| 大きいモデルが載らない | VRAM 12GB という容量そのもの | 容量は変えられない。量子化の進歩で「載る大きさ」の側が変わる可能性はある |
| Thunderbolt で動かない | GPU の初期化とドックの応答時間の問題で、カーネル側でも扱いが定まっていない | ドライバ・カーネルの更新で動くようになる可能性がある |
こうして並べてみると、今回の「できなかった」のうち、ハードウェアとして動かせないと言い切れるのは VRAM の容量だけでした。残りはソフトウェア側の事情によるもので、時間が解決する可能性が残っています。
その容量にしても、同じ 12GB に収まるモデルの中身は年々良くなっています。量子化(モデルを軽くする圧縮のような処理)の手法が進めば、去年は載らなかった規模が今年は載る、ということも起きています。12GB で何ができるかは、カードを買った時点で固定される数字ではないようです。
もうひとつ、数字に表れない理由として、ローカルLLM 周辺のツールが NVIDIA の CUDA を前提に作られている点が挙げられます。Intel や AMD のGPUでも動くものは増えていますが、情報の量には差があり、うまく動かないときに参照できる先が少なくなります。
向く使い方・向かない使い方
5回の測定を踏まえると、次のように整理できます。
| 向く | 向かない |
|---|---|
| 12GB に収まる小〜中型モデルを、そこそこの速さで動かす | 長い文書をまとめて読ませる(文脈が長い用途) |
| 短いやり取り中心の用途(prefill が速い) | 30B級など大きいモデルを動かす |
| CUDA に縛られず、Linux で使う | ミニPC に Thunderbolt で外付けする |
弱点として、何もしていない状態でも 34W を消費した点が挙げられます。常時つないでおく用途では、この待機電力を見ておいたほうがよさそうです。
コスパで見ると、RTX 3060 12GB とどちらを選ぶか
ここまで測ってきて、いちばん気になったのが「同じ12GBで、価格帯も近い NVIDIA GeForce RTX 3060 12GB と比べてどうなのか」でした。手元には両方あるため、同じ機体で測った値を並べます。
| モデル | Intel Arc B580 | RTX 3060 12GB | 差 |
|---|---|---|---|
| phi4-mini | 79.81 tok/s | 97 tok/s | B580 が 17.7% 遅い |
| nemotron-3-nano:4b | 95.52 tok/s | 90.6 tok/s | B580 が 5.4% 速い |
| qwen3:8b | 60.08 tok/s | 61 tok/s | ほぼ互角 |
| Ornith-1.0-9B | 48.03 tok/s | 49 tok/s | ほぼ互角 |
| 4モデルの平均 | 70.86 tok/s | 74.40 tok/s | 3060 が 5.0% 速い |
モデルによって勝ち負けが入れ替わり、平均すると 3060 がわずかに上、という結果でした。第1話では nemotron-3-nano:4b の1モデルだけを見て「B580 が 3060 を上回った」と書きましたが、対象を増やすと互角に近いあたりに落ち着くようです。B580 のメモリ帯域は 456GB/s で 3060 の 360GB/s を上回るため、ハードウェアの数字ほどには差が出ていない、とも言えます。
なお qwen3:14b は測定時の文脈長の条件が揃っていないため、この比較からは外しました。
価格を調べてみた
価格は実測ではなく、2026年7月時点で調べた値です。中古は相場に幅があるため、目安として見てください。
| 製品 | 状態 | 価格の目安 |
|---|---|---|
| Intel Arc B580(今回使用の AR-B580D6-E12GB/DF) | 新品 | 約48,000円 |
| NVIDIA GeForce RTX 3060 12GB | 新品 | 約39,000円 |
| NVIDIA GeForce RTX 3060 12GB | 中古 | 約20,000〜39,000円(相場は30,000円前後) |
先ほどの平均速度を価格で割ると、次のようになりました。
1万円あたりの生成速度(大きいほどお得)
4モデルの平均decode速度 ÷ 価格。速度は同一機体での実測、価格は2026年7月時点の調査値。
今回の測定結果を踏まえると、ローカルLLMを動かす目的に限れば、RTX 3060 12GB のほうがコスパが良いと言えるだろうと考えています。理由は4つあります。
- 速度が互角だった。平均では 3060 がわずかに上で、価格差を覆すほどの差は B580 側に出ませんでした
- 価格が1万円ほど安い。中古なら差はさらに広がります
- CUDA が使える。ローカルLLM の周辺ツール、たとえば画像生成の ComfyUI なども同じ1枚でまかなえます。B580 は Vulkan で動かす形になり、対応していないツールが残ります
- 導入でつまずきにくい。B580 は Ubuntu の標準状態ではドライバが古く、本来の3分の1程度の速度しか出ませんでした。3060 では、そうした前準備は要りませんでした
それでも B580 を選ぶ理由
とはいえ B580 が不利なだけの選択肢だとも思っていません。3060 は発売から年数が経っており、新品の流通は細く、中古が主体です。中古には保証や使用状況の不安がつきまといます。B580 は現行品として新品で買え、保証も付きます。
もうひとつは伸びしろです。この連載の第1話で、ドライバを1世代上げただけで 3.32倍になりました。B580 向けの最適化は現在も進んでおり、今後の更新でこの比較が変わる可能性があります。一方の 3060 は成熟しており、これ以上大きく伸びる場面は考えにくいところです。
整理すると、今すぐ確実に動かしたい人には 3060、新品で買いたい人や今後の改善に付き合える人には B580、という分かれ方になりそうです。CUDA を必要とするツールを使う予定があるかどうかも、判断の分かれ目にあたります。
まとめ
Intel Arc B580 は、ドライバさえ新しければ、12GB に収まる範囲では素直に動くGPUでした。最初の 28.52 tok/s を見た時点では失敗した買い物かと思いましたが、原因はカード側ではなく、Linux 側のドライバが1世代古かっただけでした。
一方で、12GB を超える使い方と、Thunderbolt 経由の外付けは、今回の構成では届きませんでした。ただしこの連載で分かったのは、動かなかった理由の多くが、カード側の性能ではなく周辺のソフトウェアの側にあった、ということです。第1話がまさにその例で、原因は Linux 側のドライバが1世代古かっただけでした。
そのため今回の結果は、あくまで 2026年7月時点のものだと考えています。Thunderbolt 経由の外付けも、長い文脈での速度も、更新が進めば違う数字になるかもしれません。半年後に同じ測定をしたら結論が変わっていた、ということは十分にありえます。
2枚のGPUに分けて載せる構成や、設定による高速化についても、引き続き調べていきます。状況が変わったときには、同じ条件で測り直して記録します。
連載の一覧
- 第1話:Intel Arc B580はローカルLLMの速度が出ない? 対処法で3倍に
- 第2話:Intel Arc B580が「Gen1 x1」でしかつながらない?
- 第3話:12GBに収まるモデルの速度と消費電力を実測
- 第4話:12GBに収まったのに遅い? 文脈の長さが速度を左右
- 第5話:外付けGPUがThunderboltで動かない? 3世代のGPUで検証







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